最も確実に言えるのは、MiCAによって、従来の国内制度を頼りにEU市場へサービスを提供できる業者の数が大幅に絞り込まれたということだ。未認可業者がすべての活動をすでに停止したことや、影響を受けた利用者全員が移管を完了したことまで、この数字から断定することはできない。
今回の移行では、利用者が取引所から「口座の確認」「資産の移管」「ウォレットのロック解除」「期限前の出金」を求められる、もっともらしい状況が実際に生まれた。
詐欺業者はこの状況を利用し、実在する取引所やESMA、各国の金融監督当局、移行先の提携業者になりすます。偽の規制当局通知、偽造された認可書類、そっくりに作られたウェブサイトを使い、利用者を偽サイトへ誘導して資産を送金させようとする手口だ。
欧州の規制当局は、7月1日以降、こうしたなりすまし詐欺が増えていると報告している。危険なのは、正規のサービス提供者が本当に出金や移管を求めるケースもあることだ。本物の制度変更が起きたからといって、突然届いたリンクまで本物になるわけではない。
メールやSNSのダイレクトメッセージに書かれたリンクは使わず、既知の公式サイトや認証済みアプリから、案内の真偽を自分で確認する必要がある。
認可はそれぞれ特定のEU加盟国で取得される。MiCAでは、認可を受けた暗号資産サービス提供業者(CASP)が、いわゆる「パスポート制度」を通じて、許可されたサービスを単一市場全体で提供できる仕組みがある。
ただし、これらの社名を恒久的な確認手段と考えてはいけない。認可は特定の法人に与えられ、すべてのサービスを対象にするとは限らない。利用者は、事業者が認可済みかどうかだけでなく、自分が利用したいサービスと居住国が認可の範囲に含まれるかを確認する必要がある。
一方、Binanceは7月1日の期限時点で同等のMiCA認可を取得していなかった。そのため、EU全域で利用できるMiCAパスポートを根拠にサービスを提供することはできず、報道では、対象となる新規サービスを停止し、利用者のポジションを秩序立てて閉じる対応に移るとされた。
「MiCAの許可を取得した銀行」については、提供された資料から特定の銀行名を信頼できる形で挙げることはできない。また、銀行などの金融機関は、取引所と同じ独立したCASP認可ではなく、MiCAの通知制度を通じて暗号資産サービスを提供する場合がある。このため、銀行の認可状況と取引所のCASP認可を単純に同列で比較することも適切ではない。
移行期間中は、MiCA導入前から各国の制度に基づいて合法的に営業していた事業者が、認可申請を進めながら暫定的にサービスを続けられる場合があった。ただし、各国制度は分断されていた。MiCAは、暗号資産サービス提供業者に対してEU共通の認可・監督枠組みを導入した。
主な要件は次の通りだ。
もっとも、MiCAの認可は、価格変動、ハッキング、事業者の経営破綻、運用障害、詐欺による損失を保証するものではない。
正確な法人名を調べる。 取引所のブランド名、アプリの表示名、検索広告だけで判断しない。ESMAの登録簿で法人を確認し、利用したいサービスと自分の国が認可範囲に含まれるかを確認する。各国の金融監督当局が公開する警告リストもチェックしたい。
既知の公式経路からアクセスする。 公式サイトのアドレスを自分で入力するか、確認済みのアプリを開く。迷惑メール、SMS、SNS投稿、ダイレクトメッセージに記載されたリンク、QRコード、電話番号、添付ファイルは使わない。
秘密情報を渡さない。 正規の規制当局や取引所が、口座移行のためにシードフレーズ、秘密鍵、パスワード、ワンタイム認証コードを要求することはない。
送金指示を別の経路で確認する。 送金先アドレスとネットワークを、信頼できる公式窓口で照合する。可能であれば、最初は少額のテスト送金を行い、取引記録を保存する。
移行先が対応する範囲を確認する。 保有している資産、取引ペア、カストディ(資産保管)方式、出金方法が引き続き利用できるかを、残高を移す前に確認する。
取引所への預け入れを必要最小限にする。 中央集権型取引所には、取引に必要な残高だけを置く。長期保有を自己管理する場合は、復元情報をオフラインで保護し、実際に使えるバックアップ計画を用意する。
MiCAの移行期限が示した教訓は、単に多くの業者がEU顧客へのサービス提供資格を失ったということではない。正規のコンプライアンス対応が必要な局面ほど、フィッシング詐欺の誘い文句は現実味を増す。資産を移す前に、法人名と連絡内容を、それぞれ独立した公式経路で確認することが最優先となる。