ファブレス半導体企業である同社は、自社工場でチップを製造するのではなく、センサー技術の設計と開発に注力する。目指しているのは、光子レベルの検出を小型かつリアルタイムで動作するシステムに組み込むことだ。
一般的なイメージセンサーは、露光中に蓄積された光の量を測定する。一方、SPADセンサーは光子を1個ずつ検出し、それぞれが到達した時刻を記録する。
この「光子のカウント」と「高精度な時間計測」を組み合わせることで、センサーの構成に応じて、光の強さ、距離、物質の特性、組織内の変化などを読み取れる可能性がある。
Singular Photonicsは、3次元積層したSPADアレイの下に演算機能を配置するアプローチを取る。光子のカウントや到達時間の計測、ヒストグラム生成、統計解析、自己相関(autocorrelation)などを、画素上または画素の近くで処理できる設計だ。
センサー側で処理を進めれば、取得した生データを外部のプロセッサーへ大量に転送する必要を減らせる。これにより、エッジデバイスやAIシステムで課題となるサイズ、遅延、消費電力の制約に対応し、リアルタイムで状況を判断する「インテリジェントセンシング」につなげる狙いがある。
Andartaは、Metaと共同開発した小型・高感度のSPADセンサーだ。Singular Photonicsは、医療画像の複数のモダリティーへの応用に加え、SPAD技術をウェアラブル機器へ組み込むための一歩として位置づけている。
Andartaは画素内で自己相関を計算できる。この機能は、光の急速な揺らぎを分析する用途に活用できる。企業が示す例の一つが、光が組織を通過する際の変化を追跡し、脳血流量をモニタリングする技術だ。既存センサーでは届きにくい深さの組織も対象にできるとしている。
Andartaの特徴は、単に感度を高めたカメラという点にあるのではない。光子単位の検出、小型フォームファクター、センサー内の処理を組み合わせることで、高度な光学計測を医療機器や将来のウェアラブルシステムで実用化しやすくすることを狙っている。
Sironaは、Singular Photonicsが最初に投入した製品で、512画素のSPADラインセンサーだ。時間相関単一光子計数(TCSPC)に対応し、光子が「何個」届いたかだけでなく、「いつ」届いたかを分析できるようにする。
これらは科学機器から産業用センシングまで幅広い領域にまたがる。時間情報を利用すれば、物質の違いを識別したり、光が移動する時間から距離を測定したりできる。また蛍光寿命の計測では、通常の明るさの画像だけでは見えない特性を分析できる場合がある。
Singular Photonicsは、SPAD技術の主な応用先として次の3分野を挙げている。
マシンビジョン、産業オートメーション、フィジカルAIは、光学情報を高速かつセンサーの近くで解釈できる技術の応用先となる。チップ上で処理できれば、遅延やデータ転送量、システムの大きさが制約となる場面で、従来型のカメラ構成に代わる選択肢となる可能性がある。
SironaのTCSPC、ヒストグラム生成、時間ビニング機能は、分光、顕微鏡、ToF、量子分野での利用を想定したものだ。これらの分野では、非常に少ない光子から情報を取り出すことや、光子の到達時刻を正確に測ることが重要になる。
215万ドルの資金は、まず事業運営と商用化に向けて使われる。Singular Photonicsは、エンジニアリング人材と開発能力を拡充し、製品開発を加速するとともに、より幅広いSPADイメージセンサーを早期に市場へ投入する計画だ。
今回の資金調達とパテル氏の取締役就任は、単一製品の開発にとどまらない。エディンバラ大学発の新興企業から、産業・科学・医療向けの製品群を展開する半導体企業へ移行するための体制づくりといえる。
同社が掲げる共通の設計思想は、光子を1個ずつ検出し、そのデータの多くをチップ上で処理しながら、産業、科学、医療の各システムに合わせてセンサーを展開することだ。