特に衝撃的だったのは5月28日で、この日だけで7億3,343万ドルもの資金がビットコインETFから引き揚げられた 。この大量流出の中心にいたのが、世界最大の資産運用会社ブラックロックが運用する「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト(IBIT)」である。IBITだけで、この9日間の流出額のうち20億ドル以上を占めたとされている
。先述の5月28日には、IBITから1日で5億2,784万ドルという、過去2番目の巨額資金が流出している
。
ブラックロックの売りは執拗だった。5月最終週(5月25日~29日)だけを見ても、IBITからの純流出額は9億6,600万ドルに達し、これは週間ベースで過去3番目の規模である 。この連鎖的な解約の波によって、ビットコイン現物ETFのカテゴリー全体が年初来でマイナス圏に転落した。これこそが、ビットコインを7万ドルの壁の下に引きずり下ろした最も強力な力であることに疑いの余地はない
。
ビットコインの急落は、その最も重要なセールスポイントであった「デジタルゴールド」という物語を完全に葬り去りつつある。投資家の不安心理を和らげる安全資産として振る舞うどころか、ビットコインはリスクが高まった局面で真っ先に売り逃げられる「リスク資産」としての本性を露わにしたのだ。
ETFの解約データは、機関投資家による明確な「判決」を示している。すなわち、彼らはビットコインを守るべき価値の貯蔵手段ではなく、市場に不安が広がれば即座に投げ売るべきリスクの高いポジションとして扱っていたのである 。少なくとも、今回の市場価格の動きは、2026年のストレス相場において、ビットコインが安定した価値の貯蔵庫であるという主張を著しく弱体化させた。
今回のビットコイン危機をより深刻に見せているのは、米国株式市場の驚異的な好調ぶりとの対比である。2026年5月、S&P500は7,500の大台を突破し、ナスダックも急騰した。その原動力となったのは、シスコシステムズやエヌビディアといった企業を押し上げた人工知能(AI)ブームである 。S&P500は5月26日だけで、今年に入って19回目の最高値を更新し、ダウ工業株30種平均は史上初めて50,000ドルの大台を回復した
。
この決定的な「乖離」は、暗号資産の急落が単なる全体的な「リスクオフ」の動きの一部ではないことを示している。AIと企業業績への期待が伝統的な市場を史上最高値へと押し上げる一方で、ビットコインは機関投資家の信頼と流動性が枯渇する、自ら招いた危機に沈んでいるのだ。
相場の崩壊に拍車をかけたのが、新たに浮上した地政学的な悪材料だ。イランが米国との和平交渉を停止したとの報道を受け、高まった米国とイランの緊張が、特に暗号資産市場において広範な「リスクオフ」の動きを引き起こした 。
さらに、市場の動揺を深刻化させたのが、最大のビットコイン保有企業であるストラテジー社(旧マイクロストラテジー)が、同社の保有するビットコイン準備の一部を売却したというニュースだ 。複数のメディアは、地政学リスクとストラテジー社の売却という2つの悪材料が重なったことで、ビットコインは瞬時に6万9,751ドルまで急落し、ETF市場からの売り圧力を更に増幅させたと報じている
。
今後のテクニカルな見通しは極めて不安定だ。ビットコインは既に200日移動平均線を下抜け、直近のサポートラインであった74,000ドル付近を明確に割り込んだことで、次の下値目途として66,000ドルから67,000ドルへの道が開かれたとアナリストは指摘する 。69,250ドル付近までの下落はより深いブレイクダウン(相場の崩壊)を示しており、ETFからの資金流出の奔流は、極めて重要な局面で機関投資家の需要が完全に後退したという認識を市場に定着させた
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トレーダーたちは現在、ビットコインが65,000ドルの水準を維持できるかどうかを固唾をのんで見守っている。仮にここを割り込めば、上昇トレンドの完全な反転を示す強力なシグナルとなるだろう。
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