今回の相場上昇を強力にけん引したのは、AIデータセンターに不可欠な広帯域メモリ(HBM)や先端ロジック半導体への旺盛な需要だ。2026年5月初旬の時点で、フィラデルフィア半導体指数(SOX)は年初来で既に55%もの上昇を記録しており、アジア市場もこの猛烈な勢いに追随する形となった 。
5月27日、韓国SKハイニックスの株価は一時14.9%急騰し、時価総額は約1.08兆ドル(約162兆円)に到達。世界で12番目に価値の高い企業となった 。このマイルストーン達成は、サムスン電子が5月6日に1兆ドルの大台を突破し、同日に韓国KOSPI指数が初めて7,000ポイントを突破したわずか数週間後のことだった 。さらにその前日の5月26日には米マイクロン・テクノロジも1兆ドルクラブ入りを果たしており、世界の主要メモリチップメーカー3社が同時に時価総額1兆ドル超えを達成するという前代未聞の事態となった 。
この再評価の動きは息をのむ速さで進んだ。AIデータセンター向けHBMの大量受注を背景に、SKハイニックスの株価は年初来で200%以上、2025年通年では274%も上昇していた 。わずか16カ月前、同社の時価総額は1,000億ドル(約15兆円)にも満たなかったのである 。
台湾市場も同じ波に乗った。5月4日、台湾の代表的な株価指数である加権指数(TAIEX)は、1日の上昇幅として過去最大となる1,778.51ポイントの急伸を記録し、初の40,000ポイント超えで取引を終えた 。この上昇を主導したのは、TAIEX全体の時価総額の4割以上を占めるTSMCだ 。上昇の勢いは止まらず、5月12日には42,000ポイントを突破。5月下旬までに年初来上昇率は50%を超えた 。韓国では、5月6日にKOSPIが乱高下するなか、変動を冷ますための「サイドカー」発動という珍しい一幕もあった 。
AI狂騒曲は単一市場に留まらなかった。日本のハイテク・半導体関連株も日経平均を数十年ぶりの高値圏へと押し上げ、5月5日にはMSCIアジア太平洋指数が1日で2.3%も急騰するなど、投資家の資金が半導体セクターに殺到した 。韓国では、「アリ」と呼ばれる個人投資家たちもサムスン電子やSKハイニックスの株式を買い漁り、5月中旬にKOSPIを7,700台へと押し上げる原動力となった 。
AI関連銘柄への投資が相場上昇の推進力を提供する一方で、5月末には新たな地政学的展開が相場をさらに押し上げた。5月29日、米国とイランの交渉担当者は、ドナルド・トランプ大統領の承認を条件とした60日間の停戦延長で暫定合意に達した 。このニュースは米国市場の軟調なスタートを覆し、アジア市場を急騰させた 。
最も直接的な影響は原油価格に現れた。紛争とホルムズ海峡の事実上の封鎖によって高騰していた北海ブレント原油先物は、5月単月で約19%もの大幅下落を記録。2020年以来最大の月間下落率となり、WTI原油先物は1バレル=87ドル前後で推移した 。この緊張緩和は、製造業を中心とするアジア諸国経済の重荷となっていたエネルギーコスト上昇への懸念を和らげ、一部の資金が非テクノロジーセクターへと向かう動きも促した 。
市場が祝賀ムードに包まれるなか、今回の上昇相場の基盤の狭さも懸念材料として指摘された。韓国は米国以外で初めて、時価総額1兆ドル企業を同時に2社抱える国となり、AIサプライチェーンにおける中心的な役割を改めて印象づけた 。しかしアナリストらは、市場の上昇が半導体セクターに極度に集中している点を指摘する。
台湾では、2026年の市場成長の60%以上をTSMC一社が占めており、繊維や素材といった伝統的産業はむしろ低迷している 。あるレポートが表現したように、「コンピューターチップ銘柄への加熱した熱狂」は、投資家にこの上昇相場が「いつか弾けるバリュエーション・バブルではないのか」との疑念を抱かせている 。
BNPパリバのアナリストは「アジア株式市場は3月のつまずきから完全に立ち直り、全速力で駆け出した」と状況を表現したが、この「全速力」は実質的にはAI関連のごく一部の巨大企業に限られたものだった 。
2026年5月の市場の値動きは、AI半導体需要が単なる循環的な上昇ではなく、複数年にわたる構造的な変化であるという強い確信を反映したものだった。伝えられるところによると、UBSはSKハイニックスの1兆ドル突破後に、同社の時価総額は「今後12カ月で2倍以上になり得る」とコメントしており、強気の長期成長シナリオを想定していることがうかがえる 。
2027年から2028年にかけての具体的な需要予測は現時点のレポートでは提示されていないものの、市場の動きは雄弁にその先を物語っている。わずか1カ月の間に世界のメモリ大手3社が同時に再評価された事実は、投資家が足元の収益サイクルをはるかに超えた、AI主導の成長倍率を適用している証左だ。真の試金石となるのは、エンドユーザーによるAI技術の普及が、それを支えるハードウェアへの「1兆ドル」の賭けを正当化できるほどのスピードで進むかどうかである。