このミスは利上げ期待を完全に潰し、FRB(連邦準備制度理事会)による金融緩和観測を一気に復活させた。金先物は一時4,400ドルを突破し、1日で25億ドルもの取引高を記録。これは金先物にとって4か月ぶりの最大の上昇日となった 。さらに、過去2か月分の雇用者数も合わせて10万3,000人の下方修正が行われ、急速に冷え込む米経済の構図がはっきりと浮かび上がった 。
投資家は驚くべきペースで金ETF(上場投資信託)への資金を戻している。SPDR Gold Trust(GLD) は、7月の雇用統計を受けて**1週間で7.7%**上昇。マクロ経済の不確実性と金利観測の急変が背景にある 。
これは、より大きなトレンドの一部だ。2025年通年で見ると、世界の金ETFの保有量は801トン増加——これは過去2番目に大きい記録だ。地金や金貨の購入も12年ぶりの高水準に達した 。2025年の金ETFへの総流入額は571億ドルに上り、iシェアーズ・ゴールド・トラスト(IAU)が86億ドル、SPDR ゴールド・ミニシェアーズ(GLDM)が62億ドルを集めた 。
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのアナリストは、このETFの再蓄積が中央銀行の需要と並んで、価格を支える重要な構造的要素になっていると指摘する 。2020年の不況以降、約4年にわたって金ETFからは純流出が続いていたが、2025年の投資家需要の回復によって需給バランスは根本的に変化した。
中央銀行の購入は、金価格の揺るぎない下支えとして機能し続けている。2025年、世界の中央銀行は推定863トンの金を購入。UBSは2026年の購入量が950トンにまで加速すると予測している 。
特に際立っている2つの買い手は以下の通り:
ポーランド: ポーランド国立銀行は2年連続で最大の買い手となり、2025年に102トンを追加。これによりポーランドの金準備は550トンに達した 。ポーランドの買いは2025年第1四半期、世界の不確実性が高まる中で特に加速した 。
中国: 中国人民銀行(PBOC)は複数年にわたる購入キャンペーンを継続。2025年は純増で27トンを追加。2025年初頭には、関税リスク、地政学的緊張、再燃するインフレ懸念などを背景に、買い越しが加速した 。
その背景は明確だ。新興市場国の中央銀行が、ドル建て準備資産から分散を進めているのだ 。中国のソブリン・ファンドは米国のプライベートエクイティから資金をシフトしており、欧州の投資家は実物の地金を購入している。これらはすべて、体系的な懸念の深さを示す静かな資産の組み替えの一環である 。
即時のきっかけを超えて、いくつかのより長期的な要因が上昇を支え続けている:
これらすべての要因が自己強化サイクルを生み出している。価格上昇がETF流入を呼び、流入がさらなる価格上昇を支え、その価格上昇が中央銀行の購入を促す。
UBSはこのサイクルの中で最も強気なメガバンクの一つだが、その目標は状況の変化に応じて変動してきた:
2026年1月(強気のピーク): UBSは2026年3月、6月、9月の目標価格を6,200ドルに引き上げ、年末(米中間選挙後)には5,900ドルへの調整を見込んだ 。同行は金を魅力的な長期ヘッジと評価し、投資家と中央銀行からの予想以上の需要を理由に挙げた。
2026年5月(格下げ): UBSは2026年末の予想を5,500ドルに、短期目標を5,200ドルに引き下げた。理由は、長期国債利回りの上昇、ドル高の持続、原油価格の上昇という根強い逆風 。ただし同行は、これは「レジームチェンジではなくリセット」であり、構造的な強気相場は終わっていないと強調した 。
現在の状況(2026年8月): スポット金は第1四半期の5,300ドル超からは後退しているが、4,300ドルを大きく上回っている。5月の格下げはドル高と金利上昇圧力を反映したものだが、7月の雇用ショックによって緩和観測が再燃し、金に新たな上昇材料をもたらす可能性がある。UBSは依然として2026年にさらに2回の米利下げをサポート要因として見込んでいる 。
UBSのフルレンジは、地政学的緊張が高まった場合の7,200ドルという強気シナリオから、FRBがより積極的に金利を引き上げた場合の4,600ドルという弱気シナリオまでを含む 。
金の上昇には複数の原動力がある。短期的には、米国の雇用市場データの軌道が鍵となる。7月の雇用ミスがより広範な弱含みトレンドの始まりだと証明されれば、利下げ期待はさらに強まり、金はUBSが「ファンダメンタルズが再び影響力を発揮する」と表現する4,500〜4,800ドルのゾーンに押し上げられる可能性がある 。
中央銀行の購入が鈍る兆候はない。中国とポーランドが先導し、他の新興国も追随すると見られ、構造的な需要の下支えは当面の間、維持されるはずだ。
金は2025年に64%上昇し、主要資産クラスの中で最高のパフォーマンスを記録した 。2026年の課題は、次の上昇の原動力が、米国経済の弱体化、中央銀行の継続的な買い越し、それとも2025年の上昇を支えたETF流入の再開のいずれになるかだ。その答えは、今のところ、この3つすべてであるように見える。