一方、PanStar Lineは、韓国企業として初めて北東航路を通る商業コンテナ試験航海の予約受付を始めた。ただし、これは確立された定期航路ではなく、あくまで試験的な運航だ。報道で確認できる計画では、釜山を出港し、欧州ではロッテルダム、ハンブルク、グダニスクなどに寄港する。報道によって航路の細部が異なるため、PanStarの寄港地としてフェリックストウが確定していると断定する根拠は十分ではない。
運航会社が北極航路を検討する理由は、所要時間の短縮だけではない。紅海周辺の安全保障上の混乱や主要な海上チョークポイントでの迂回により、アジア・欧州間の従来のスケジュールは不安定になっている。北東航路は、より長いスエズ運河ルートに代わる選択肢として、物流の速さと輸送網の強靭性の両面から試されている。
ブラックカーボンとは、船舶のエンジンや燃料の燃焼で生じるすすの粒子だ。北極では特に影響が大きい。雪や海氷に付着すると、太陽光を反射するはずの白い表面が暗くなり、熱を吸収しやすくなる。その結果、融解と温暖化の連鎖を強める可能性がある。
問題は船のすぐ近くに限られない。ブラックカーボンは大気中を長距離移動した後、北極の雪、海氷、陸上の氷に沈着することがある。つまり、北極圏内またはその周辺を航行する船舶の排出が、船の航跡から遠く離れた地域の気候問題に関係する可能性がある。
Clean Arctic Allianceは、北東航路を利用する船舶に対し、国際海事機関(IMO)の指針に従うこと、ブラックカーボン排出の少ない留出油などのよりクリーンな燃料を使うこと、排出量を測定・報告することを求めている。
船舶の定常的な往来が増えれば、次のような圧力が重なり得る。
ただし、提供された資料が示しているのは、これらがClean Arctic Allianceが提起する懸念だという点である。Sea LegendやPanStarの新たな航海について、具体的な環境影響を定量評価した結果が示されているわけではない。
Sea Legendの北極航路に関連する船舶の一部は、LNG(液化天然ガス)に対応している。 しかし、Clean Arctic Allianceの分析では、LNGは北極圏の気候リスクを解決する万能策とはみなされていない。
提供資料には、新サービスで使われる個々の船舶の排出量を比較した確定的なデータや、全船舶の燃料を特定する情報はない。そのため、このサービスをカーボンニュートラル、あるいは総合的に明確な低排出サービスだと表現するのは時期尚早だ。
IMOの対応には前進がある一方、北極圏特有のリスクに対処するには穴が残ると、Clean Arctic Allianceは指摘している。
IMOは5月1日、北東大西洋排出規制海域(ECA)を採択した。この制度は硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx)の削減を目的としており、同アライアンスも前向きな一歩と評価している。
しかし、ブラックカーボンへの対応としては不十分だという。船舶は、スクラバーを併用した重油や、硫黄分が極めて少ない燃料油を使うことで硫黄規制を満たせる場合があるが、それらの運用方法でも相当量のすすが排出される可能性がある。
IMOのMARPOL条約改正に基づき、北極海では2024年7月1日から、燃料として使用する重質燃料油(HFO)の使用・輸送が原則として禁止された。 ただし、免除や適用除外により、2029年7月1日まで一部の使用・輸送が認められる場合があると、環境団体は指摘している。
Clean Arctic Allianceの見方では、HFO規制は包括的なブラックカーボン規則とは異なる。北極圏全体で操業するすべての船舶と燃料を対象に、排出量の少ない燃料を一律に義務づけるものではないからだ。
デンマークがグリーンランドを代表して提出し、ドイツ、フランス、ソロモン諸島が共同で支持する案は、MARPOL附属書VIの下で、北極海を航行する船舶に燃料要件を課すものだ。燃料の密度、粘度、残留炭素などの特性を定め、高排出の重質残油を実質的に使えなくすることを目指している。
構想の中心にあるのが、船舶用軽油などのよりクリーンな留出油だ。高いすす排出につながる残油を、ブラックカーボン排出の少ない燃料に置き換えれば、船舶から出るすすの量を減らせる。大気中を長距離移動して北極の雪や海氷に沈着する粒子も減る、という考え方である。
現時点でClean Arctic Allianceが求めているのは、よりクリーンな燃料への切り替え、ブラックカーボンの測定・報告、既存の北極圏保護策の厳格な執行、そして汚染、騒音、油流出、生態系への被害を一体で扱う対策だ。
北東航路は、アジアと北欧を結ぶ季節運航のルートとして、輸送時間を短縮できる可能性がある。Sea Legendのサービス開始によって商業航路としての定期性が高まり、PanStarの試験航海は他の運航会社も実用性を見極めようとしていることを示す。
Clean Arctic Allianceが問題視しているのは、特定の一航海だけではない。商業的な勢いが、北極圏の脆弱性に十分対応した規制より先に進めば、ブラックカーボン、汚染、生態系へのリスクを伴う船舶輸送が常態化する可能性がある。氷の上に沈着したすすは、船の航跡を越えて北極の融解に影響し得る。北極航路の採算性を論じるには、速度や距離だけでなく、その環境コストと規制の空白も同時に検討する必要がある。