ここで言葉遣いは重要だ。中国側の当局者やメディアは、今回の発射を日本による海外での「攻撃的ミサイル」発射として位置づけた 。一方、複数の報道で確認されている兵器は、海上の艦艇を標的とする88式対艦ミサイル、または地対艦ミサイルである
。
今回の演習が示したのは、同盟・友好国が係争海域の近くで「陸上から海上の艦船を脅かす」訓練を本格化させているということだ。軍事用語で言えば、これは「海洋拒否」に近い発想である。海に艦艇を出して存在感を見せるだけでなく、沿岸部から相手の水上艦艇にリスクを与える能力を演練する。
だからこそ、ミサイルそのものと同じくらい場所が重かった。自衛隊はフィリピン北部に陸・海・空の部隊を展開し、バリカタン2026に本格参加したと報じられている 。そのうえで、南シナ海に面する海域の標的艦に対し、沿岸から対艦ミサイルを撃つ実動訓練が行われた
。
もちろん、これだけで日本、フィリピン、米国の間に新たな正式な統合作戦司令体制ができたとまでは言えない。だが、構成要素ははっきり見える。日本のミサイル部隊、フィリピンの地理、米比演習の枠組み、そして多国間の海上打撃訓練が、同じ場面で結びついた 。
日本にとって、この発射は戦後の安全保障政策の延長線上でも、かなり踏み込んだ場面だった。フィリピンメディアは、バリカタン2026について、第二次世界大戦後初めて日本の戦闘部隊がフィリピン領内で参加した演習だと報じている 。別の報道も、日本が米比の年次演習に本格的な戦闘参加者として加わり、フィリピン北部に陸・海・空の部隊を展開したとしている
。
重要なのは、日本が一夜にして新たな「地域の打撃大国」になったという話ではない。むしろ、東京が自国領域の外で、実弾を伴う対艦能力を多国間演習の中に置く意思を示した点にある。
ロイターはまた、マニラと東京が防衛装備移転の可能性について協議を始めたとも報じている。これは、日本が軍事輸出に関する制限を撤廃したことにより可能になった動きだとされる 。外交的な支援だけでなく、装備、訓練、部隊運用を通じて東南アジアの安全保障により具体的に関わる日本の姿が見えてくる。
フィリピンにとって、今回の演習は「同盟国が支持を表明する場」を超えた意味を持つ。日本の部隊がフィリピンの土地からミサイルを発射し、南シナ海に面する海域の退役フィリピン海軍艦艇を標的にした実際の海上打撃訓練が行われたからだ 。
米国にとっては、分散型の抑止という意味が大きい。大型の米軍基地や米国単独の兵器に頼るだけでなく、同盟国・友好国の地理と能力を組み合わせる。ロイターは、今回の訓練に日本の自衛隊が米国、オーストラリア、フィリピンの部隊とともに参加したと報じている 。
中国は、今回の発射を単なる訓練とは見なさなかった。中国外務省の林剣報道官は、日本の「右翼勢力」が再軍事化を加速させており、「新軍国主義」が地域の平和と安定を脅かしていると述べたと、中国国営・関連メディアが報じている 。
中国系メディアのGlobal Timesは、日比の軍事協力が東シナ海、台湾海峡、南シナ海を結びつけるものだと論じ、人民解放軍がルソン島東方の海域で演習を行ったことを「現在の地域情勢への対応」と位置づけて報じた 。これは中立的な分析というより中国側の見方だが、北京が日米比周辺の演習をどのように受け止めているかを示している。
日米比などの側から見れば、沿岸からの対艦訓練は防衛的な抑止だ。海上で一方的な圧力をかければ代償が高くなる、と示すためのものだと言える。
だが中国側から見れば、同じ動きは日本の再軍事化や、同盟網による包囲として映る。ここに危うさがある。双方が「抑止」と考える行動を、相手は「対決への準備」と受け止める可能性があるからだ。
中国系メディアはすでに、日比の軍事協力が地域の緊張を高め、衝突拡大のリスクを引き上げると警告している 。また中国当局者は、日本がバリカタンで戦闘的な役割を担う中、関係国に対して「火遊び」をしないよう警告したと報じられた
。
今回の発射の本質は、88式対艦ミサイルそのものだけではない。日本が能力を出し、フィリピンが地理を提供し、米比を軸とする演習枠組みが多国間の実動訓練の場をつくった。その組み合わせが、南シナ海周辺の抑止をより実戦的で分散型のものにしている。
これは、中国の海洋進出に対する同盟・友好国側の対応が、声明や共同文書から、実際の作戦を想定した訓練へと移っていることを示す。同時に、その抑止の可視化は、地域の緊張をさらに高めるリスクも伴う。
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