「AIを売る」のではなく、混雑した取引をほどく
バンク・オブ・アメリカ(BofA)の最新の資金フロー分析は、アクティブ運用の投資家がAI投資の見方を変え始めていることを示している。焦点は、人工知能や半導体需要が崩れるかどうかではない。むしろ、集中しすぎたポジションの評価、投資資金を回収できるまでの時間、そしてAIインフラを借入金で整備する際のコストが見直されている。
2
世界の半導体株から442億ドルが流出
BofAのデータを報じたInvesting.comによると、アクティブ運用のロングオンリーファンドは直近1カ月で、世界の半導体セクターから442億ドルを引き揚げた。
2
半導体株は、AIブームに連動する取引のなかでも特に資金が集中していた分野だ。BofAの7月のファンドマネジャー調査でも、「世界の半導体株を買い持ちする取引」は最も混雑した取引とされ、回答者の82%がそう指摘していた。
14
15
ただし、この売却額を「AI投資の終了」と読むのは早い。今回の数字はアクティブ運用ファンドのポジション変化を示すものであり、AI向け支出が止まるという予測ではない。ファンドは半導体セクター全体の比率を下げながらも、競争力やバリュエーションに魅力があると判断した個別企業を保有し続けることができる。
売りはAI計算基盤と量子コンピューティングに集中
過去1年間で特に売りが大きかったテーマは、AIコンピューティングと量子コンピューティングだった。一方、資金が向かったのは、エネルギー貯蔵、精密医療、宇宙、サイバーセキュリティなどの分野である。
2
この動きからは、収益化の時期を見通しにくいテーマから、より具体的な商機やインフラ需要を説明しやすい分野へ資金を移す姿勢が読み取れる。
もっとも、AI関連企業を一律に手放しているわけではない。例えば、欧州のASMLや新興国市場のTSMCは、半導体全体への投資を減らす局面でも、ベンチマークに対する相対的な保有比率が高い銘柄として残っている。
2 重要なのは「半導体を売ったか」ではなく、どの企業、地域、テーマを残すかという選別だ。
米国・欧州から流出、日本株には流入
地域別の資金フローも、今回の動きが半導体だけの問題ではないことを示している。直近1カ月の地域別フローは次の通りだ。
- 米国株: 648億ドルの流出
- 欧州株: 259億ドルの流出
- 日本株: 139億ドルの流入
年初来では、日本株への流入額が341億ドルに達した。世界のエネルギー株には282億ドル、素材株には257億ドルが流入している。また、世界の通信セクターには直近1カ月で167億ドルが入り、今回のデータで最大のセクター別流入となった。
2
背景にあるのは、少数の高成長テクノロジー企業が設備投資を加速し続けることに依存しすぎない投資先を求める動きだろう。AIの成長を否定するのではなく、AI投資が生み出す電力需要、通信需要、素材需要といった「周辺の恩恵」にも目を向けている。
ファンドがオーバーウエートにしているテーマと銘柄
テーマ別に見ると、ファンドが最もオーバーウエート、つまり基準となる地域ベンチマークより多く保有しているのは、次の分野だ。
2
- 精密医療
- ラグジュアリー・ライフスタイル
- 送電網の近代化
地域別に、ベンチマークに対する金額ベースのオーバーウエートが大きい銘柄は以下の通りとなっている。
- 米国: フィリップ・モリス、メタ・プラットフォームズ
- 欧州: ASML、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)
- 日本: キーエンス、日立製作所
- 新興国市場: TSMC、サムスン電子
2
この顔ぶれからも、投資家がAI関連株をすべて同じように扱っていないことが分かる。半導体セクター全体への配分を抑えつつ、特定の企業や市場ではAI・自動化・インフラ需要へのエクスポージャーを維持している。
アンダーウエートは量子計算とAIプラットフォーム
テーマ別に最もアンダーウエート、つまりベンチマークより保有が少ないのは、量子コンピューティングとAIプラットフォームだ。
2
ここで投資家が問うているのは、「AIは重要になるのか」ではなく、「現在の支出と株価評価を、どれほど早く利益で正当化できるのか」という点だ。
長期的に有望なAI戦略を持つ企業でも、設備投資の増加ペースが目に見えるキャッシュリターンを上回れば、当面のポートフォリオでは魅力が薄れる可能性がある。AIの将来性と、現在の株価で投資する妥当性は、同じ問題ではない。
債券市場にも広がる資金調達への警戒
AI投資への再評価は、株式市場だけでなく信用市場にも表れている。Alphabet、Amazon、Meta、Microsoft、Oracleの5社は、2026年8月10日までに約2,200億ドルの債券を発行した。前年の同じ時期は125億ドルだったと、Reutersが報じている。
18
21
AIインフラの整備が、企業の営業キャッシュフローだけでなく、借入金にも大きく依存するようになっているためだ。Reutersによれば、テクノロジー企業の社債スプレッドは約89ベーシスポイントで、投資適格社債市場全体よりおよそ9ベーシスポイント広い。スプレッドの拡大は、投資家が増え続ける債券供給と不確実性を引き受けるため、より高い利回りを求めていることを意味する。
18
Amazonが実施した250億ドルの長期債発行も、米国債の同程度の年限の利回りに対して約120ベーシスポイント上乗せした水準で価格が決まった。
18
これはAI投資が失敗すると証明したものではない。しかし、投資負担そのものが投資判断の中心になりつつあることは示している。株式投資家は設備投資がいつ利益に結びつくのかを見極め、債券投資家は資金を提供する見返りとして、より大きな利回りを求めている。
AI取引は「全面買い」から選別へ
資金フローと信用市場の動きを合わせると、投資家のポートフォリオ構築は次のように変化している。
- 無差別なAI・半導体投資を縮小している。 混雑したテーマへの幅広いエクスポージャーを落とし、個別銘柄や用途を選んでいる。
- 収益化の時期を重視している。 問題の中心は、AIに成長力があるかではなく、巨額のインフラ投資を正当化するリターンがいつ現れるかに移った。
- 実体的な恩恵を受ける分野を好んでいる。 送電網の近代化、蓄電、通信網、素材、そして一部の産業・ヘルスケア関連テーマが選択肢になっている。
2
- 地域分散を進めている。 米国株や欧州株の比率を下げる一方、日本を含む米国外の市場への配分が注目されている。
2
最も妥当な結論は、「投資家がAIを見捨てた」ではない。市場が、AIの設備投資チェーン全体を、価格を問わず保有する段階から、より明確な割安感、近い将来のキャッシュフロー、個別銘柄の選別を求める段階へ移ったということだ。
今後の焦点は、AI関連の売上高や生産性向上が、現在借り入れによって賄われている投資規模に見合う速さで実現するかどうかにある。