今年2026年のハッジは5月下旬に行われましたが、ここでも気温は再び40℃を超えました 。2024年6月に起きた壊滅的な高温の悲劇に比べれば低いとはいえ、危険な暑さから逃れることがいかに難しくなっているかを証明する新たな証拠です。
ハッジはイスラム暦に基づくため、グレゴリオ暦(太陽暦)では毎年約11日ずつ時期が早まります 。2027年は5月中旬に開催される見込みで
、このまま冬へと向かって移動していくことで、一時的には気温の低下が期待できます。しかし、WWAの研究チームは「それでさえ、上昇し続ける気温を相殺するには不十分だ」と強調しています
。まるで、ゴールが徐々に遠ざかっていくマラソンを走っているかのようです。
2026年の研究が帯びる切迫感を理解するには、まず2024年の出来事を振り返る必要があります。この年、ハッジが始まった6月中旬、メッカの最高気温は51.8℃に達し、グランド・モスク周辺の巡礼者を含む1300人以上が死亡しました 。気象分析グループClimaMeterによる別の解析では、人為的な気候変動がその熱波を約2.5℃も押し上げていたことが判明しています
。自然変動だけであれば、ここまでの悲劇には至らなかった可能性が高いのです。
さらに、2026年5月の欧州地球科学連合(EGU)総会で発表された後続研究は、2024年の巡礼期間中、熱中症指標が若く健康な成人であっても生存可能な限界値を数時間にわたって超過したことを明らかにしています 。具体的には、2024年6月の高温多湿な条件下で、屋外に長時間さらされることが冷却手段なしでは致死的になりかねない、約4時間連続の「危険な窓」が発生していたのです
。
暦の上での季節移動が進んでも、気候モデルは危険な暑さがいずれ追いついてくることを示しています。2019年に学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載された研究は、ハッジ期間中の暑熱ストレスが、2047年から2052年、そして2079年から2086年の2回にわたって「極限の危険閾値」を再び超える可能性が高いと予測しました 。
この予測は、今日生まれた人が20代と50代で、ハッジ中に深刻な危険に直面する可能性があることを意味します。また、湿球温度(暑さと湿度の複合指標)に基づく別の研究では、地球の平均気温上昇が1.5℃から2.0℃へとわずか0.5℃進むだけで、メッカの夏季に危険な暑熱ストレスの限界値を超える確率が大幅に増加することが判明しています 。適応策の成否が、生死を分ける時代が目前に迫っているのです。
2024年の大惨事を受け、サウジアラビア当局は暑さ対策を強化しました。その中で最も目に見える対策が、聖地や巡礼者向け施設での大規模な空調設備の拡充です 。これらのシステムは、巡礼者が休息し体温を下げられる冷却された屋内・半屋外空間を生み出し、現在の安全戦略の中心的役割を担っています。WWAの研究自体も、拡大するリスクと更なる適応の必要性について、当局と国際機関への公式な警告として機能しています
。
しかし、EGU総会で発表された研究が強調するのは、技術による解決の限界です。屋外の暑熱ストレスが生存限界を何時間も超える場合、エアコンの効いた避難所は必須のインフラとなりますが、巡礼者が聖地間を移動する途中や、屋内の冷却施設にすぐにアクセスできない人々が直面するリスクを根本的に解決することはできません 。Climate Analyticsによる分析も、「極限状態で屋内の冷却システムが故障した場合、健康リスクは破滅的な規模に拡大する」と警告しています
。
一連の研究が描き出す未来予想図は、「ハッジが不可能になる」という単純なシナリオではありません。むしろ、かつては安全と考えられていた時期に危険が忍び寄り、巡礼が極端な暑さとの遭遇によって定義される度合いが増していくという、より複雑で困難な現実です。イスラム暦の巡りは一時の猶予をもたらしますが、大枠のトレンドは、温暖化が巡礼のあり方を容赦なく変えつつあることを示しています。
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