狙いは、設定上のリンクMTUを変更することではなく、1パケットごとに発生する処理を減らすことです。より大きな単位で内部処理できるため、標準MTUのネットワークや、NICがトンネルのハードウェアオフロードに対応していないシステムでも効果が得られる可能性があります。
基盤となるBIG TCPのパッチ系列では、パケット長が64KiB未満である、あるいは16ビットのフィールドに収まるという従来の前提を、トンネル処理の各所から取り除く作業が行われました。VXLANとGeneveを利用するBIG TCPのIPv4・IPv6ワークロードが対象です。
もう一つの重要な変更は、FIB(Forwarding Information Base、転送情報ベース)のルール操作でグローバルなRTNLロックへの依存を減らしたことです。対象には、RTM_NEWRULE や RTM_DELRULE などの操作が含まれます。
複数のネットワーク名前空間で同時にルーティングルールを変更するシステムでは、グローバルロックが処理を直列化し、並列性を制限することがあります。今回の設計変更は、こうしたワークロードで競合を減らし、処理をより並行して進められるようにするものです。
一方、提供された情報には、IPv4またはIPv6で何%、あるいは何倍高速になるかを示す信頼できるベンチマーク結果はありません。したがって、現時点で確実に言えるのは、アーキテクチャ上、複数のネットワーク名前空間を並行管理する処理がスケールしやすくなることまでです。具体的な効果は、ワークロードやシステム構成によって変わります。
今回のネットワーク取り込みには、次のような変更も含まれています。
今回のネットワーク取り込みでは、Kicinski氏とAbeni氏が net の632件、net-next の648件、合計1,280件のパッチを統合しました。ただし、この数字だけではレビューや調整に必要な作業量を表しきれないとしています。
投稿数の増加は、より広い期間でも確認されています。9日間だけで、[PATCH net][PATCH net-next]
問題は、AIがコードを書けることだけではありません。AIを使えば、もっともらしい説明、バグ報告、レビュー依頼まで低コストで大量に作成できます。個々の変更が本当に必要なのか、正しいのか、安全なのか、取り込む価値があるのかを最終的に判断するのは、依然として人間のメンテナーです。
メンテナー側は、Metaから複数の大規模言語モデルをパッチレビューに利用するためのアクセスと予算を確保したと説明しています。まずは、幻覚を含む変更や質の低いパッチを早い段階で見つけ、人間のレビュー時間を浪費しないことが目的です。
今後、LLMに任せる候補として挙げられているのは、主に次のような定型作業です。
これは、LLMをサブシステムのメンテナーの代替ではなく、開発ワークフローを補助する道具として扱う考え方です。
特にカーネルの並行処理では、LLMによるチェックに限界があります。PCIeエラーやタイムアウトのような、発生頻度が低く、タイミングに左右される経路では、まれな実行順序の競合が潜んでいる可能性があります。
そのため、今回の取り組みは「AIにカーネルの正しさを任せる」というより、増え続ける投稿の中から明らかに弱いものや定型作業を機械的に処理し、人間が本当に重要なレビューに集中できるようにする試みといえます。
提供された情報には、Linux 7.3の最初のリリース候補版(7.3-rc1)や、最終的な安定版の公開予定日は記載されていません。今回報じられているのは、Linux 7.3の開発サイクルでネットワークコードが取り込まれたことです。
現時点での要点は、ネットワーク機能の拡張そのものと同時に、AIによってパッチやレビュー依頼の供給量が急増し、オープンソース開発のボトルネックが「コードを書くこと」から「変更を検証し、優先順位を付けること」へ移りつつある点にあります。