欧州心臓病学会(ESC)2026年学術集会で発表された研究で、血中のキシリトール濃度が高い人は、低い人に比べて、死亡・心筋梗塞・脳卒中を含む「主要心血管イベント」を起こすリスクが高かったと報告されました。分析対象は2つの前向きコホートに参加した計1万7710人です。ただし、観察研究であるため、キシリトールそのものが心筋梗塞や脳卒中、死亡を引き起こしたと証明したわけではありません。579
研究で示された数字
研究チームは、血中キシリトール濃度を4つのグループ(四分位)に分け、最も高いグループと最も低いグループを比較しました。主要心血管イベントは、死亡、心筋梗塞、脳卒中と定義されています。5
- カナダ長期加齢研究(Canadian Longitudinal Study on Aging)では、血中濃度が最も高いグループのリスクは、最も低いグループより約6年間で57%高かった。58
- 英国のEPIC-Norfolkコホートでは、同じ比較で、約30年間のリスクが18%高かった。58
- 四分位の中間グループも含めると、血中キシリトール濃度が上がるにつれてイベント率が高くなる傾向が見られた。78
- この関連は、BMI(体格指数)、高血圧、糖尿病、血中脂質など、主要な心血管リスク因子を考慮した後も残った。67
ここで示されているのは、血中濃度が異なる集団同士を比べた相対的なリスク差です。「キシリトールを使う人の57%が心筋梗塞や脳卒中になる」という意味ではなく、個人の絶対リスクを示す数字でもありません。
どのような人を調べたのか
研究では、2つの前向き観察コホートのデータを統合しました。1つはカナダのコホートで、追跡期間は約6年。もう1つは英国のEPIC-Norfolkで、最長30年にわたる追跡データが使われました。58
研究者は参加者の血中キシリトール濃度を測定し、その後に起きた心血管イベントとの関係を分析しました。この方法は、ある生体指標と将来の健康イベントの関連を調べるのには適していますが、参加者にキシリトールの摂取量を無作為に割り当てた臨床試験ではありません。
そのため、測定されていない生活習慣や健康状態の違い、あるいは健康状態の変化が血中キシリトール濃度と心血管リスクの両方に影響した可能性は残ります。
キシリトールは身近な製品に使われている
キシリトールは糖アルコールの一種で、砂糖不使用・低カロリーをうたう製品に広く使われています。ガム、タブレット菓子、歯磨き粉、ジャム、ヨーグルト、アイスクリーム、飲料のほか、口腔ケア用品や医薬品にも含まれることがあります。347
食品中に微量に自然に存在する一方、添加物として使われるキシリトールは、自然に含まれる量を大幅に上回る場合があります。報告では、添加キシリトールの使用量が自然由来の微量な量の約1000倍に達することもあるとされています。7
したがって今回の研究が問題にしているのは、商品に少量含まれているかどうかだけではありません。血中濃度が高い状態や、長期間にわたる多量の曝露が心血管の健康とどう関係するかが焦点です。7
血栓をつくりやすくする可能性
研究チームの過去の研究では、キシリトールが血小板の働きを強め、血液を固まりやすくする可能性が示されています。もしこの作用が確認されれば、心筋梗塞や脳卒中のような血栓性イベントと関連する生物学的な経路の説明になり得ます。716
ただし、メカニズムとしてもっともらしいことと、キシリトールが実際に病気を引き起こしたことは別です。血小板や血栓への作用が、今回の観察結果の原因だと決まったわけではありません。
この研究からは分からないこと
今回の研究は、キシリトールの摂取を無作為に割り当てたランダム化比較試験ではありません。そのため、複数のリスク因子を調整していても、残余交絡や逆因果の可能性を完全には排除できません。57
また、次の点も明らかになっていません。
- どの程度の摂取量や摂取期間が問題になるのか
- 血中キシリトール濃度が、食品、ガム、医薬品、口腔ケア用品からの長期的な摂取量をどの程度正確に反映するのか
- どのような人が影響を受けやすいのか
- キシリトールの摂取を減らせば心血管イベントが減るのか
最も慎重で妥当な解釈は、「2つのコホートで、血中キシリトール濃度が高い人ほど心血管リスクが高かった」というものです。カナダの分析では短期的な関連がより大きく、EPIC-Norfolkでは長期追跡で関連が小さかった点も、57%や18%をすべての人に当てはまる個人リスクとして扱うべきではない理由です。
砂糖に戻せばよい、という話ではない
今回の結果は、砂糖代替品なら高用量・長期使用でも自動的に安全だと考えることに注意を促すものです。一方で、キシリトールを砂糖に置き換えるべきだと示した研究ではありません。添加糖にも、すでに知られている健康上の問題があります。また、今回の研究はキシリトールと砂糖を直接比較したものでもありません。7
今後は、問題となる摂取量、製品ごとの曝露源、血小板や血栓に関わる仕組み、影響を受けやすい集団、長期的な心血管安全性を明らかにする必要があります。摂取量を詳しく追跡する大規模研究、作用機序を調べる研究、そして可能であれば無作為化されたエビデンスがそろうまでは、キシリトールについて臨床や公衆衛生の指針を変更する根拠としては不十分です。1479