水星のケイ酸塩でできた地表は、これまで考えられていたよりも大幅にシリカ(二酸化ケイ素、SiO₂)が少ないのかもしれません。新たな研究は、水星の地表におけるSiO₂の割合を質量比でおよそ**37%と推定しました。これは、従来の約49~60%**という見積もりを大きく下回る数字です。
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この結果が確認されれば、水星の火山岩は、惑星内部の非常に高温で、より深い部分まで大規模に溶融したマントルから生まれた可能性があります。ただし、水星は極めて酸素に乏しい環境で形成されたと考えられており、ケイ素の一部が二酸化ケイ素ではなく、金属ケイ素や炭化ケイ素などの形で存在している可能性も残ります。
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どうやって水星のシリカ量を推定したのか
これまで、水星に着陸して岩石を直接分析した探査機はありません。地球へ水星の試料が持ち帰られたこともありません。そのため研究チームは、ケイ酸塩物質の赤外線信号から組成を推定する間接的な手法を使いました。
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鍵となったのは、赤外線スペクトルに現れる「クリスチャンセン・フィーチャー(Christiansen Feature)」です。これは放射率が最大になる特徴的な波長で、ケイ酸塩物質に含まれるSiO₂の量によって位置が変化します。
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研究チームはまず、惑星表面にあり得る組成を再現したガラス粒子を実験室で作製し、赤外線を測定しました。こうして、クリスチャンセン・フィーチャーの波長とガラス中のSiO₂量を結び付ける経験的な校正式を作成しました。
次に、その校正式を月の高解像度赤外線観測へ適用しました。月では、アポロ、ルナ、嫦娥(Chang’e)計画によって得られた試料と観測結果を比較できるため、月面のSiO₂分布を再現することで手法の妥当性を検証できます。
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したがって、今回の37%という数字は、地表を直接採取して分析した化学分析値ではありません。赤外線信号から推定した、地表のケイ酸塩に相当するSiO₂量として理解するのが適切です。
37%という低いSiO₂量が示す水星の過去
もし水星の地表がこれほどシリカに乏しいなら、惑星の火山活動は従来よりも極端なものだった可能性があります。
水星には広大な「平原」が広がっており、その多くは火山活動によって形成されたと考えられています。
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37 シリカの少ない溶岩を作るには、通常の想定より高温のマントルが、より深い領域まで大きな割合で部分溶融する必要があるかもしれません。
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つまり、現在の水星の地表は、惑星が初期に分化し、激しい火山活動を経験した時代の記録を残している可能性があります。
ただし、この推定だけでマントルの温度や溶融した深さ、特定の地質形成過程が決まるわけではありません。実験室で作ったケイ酸塩ガラスが、水星の化学的に特殊な地表をどれほど正確に代表しているかによって、解釈は変わります。
別の可能性――ケイ素がSiO₂になっていない?
水星は、知られている地球型惑星の中でも特に「還元的」な環境で形成されたと考えられています。探査データからは、硫黄が多く、鉄や酸素が比較的少ないことが示されており、酸素が非常に少ない条件と整合します。
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このような環境では、水星にあるすべてのケイ素が酸素と結び付いて二酸化ケイ素になるとは限りません。一部は、金属ケイ素や炭化ケイ素のような還元された形で存在する可能性があります。
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こうした相は赤外線信号に影響を与え、実際よりもシリカの少ないケイ酸塩地表に似た特徴を示す可能性があります。
そのため、「水星の地表の37%が二酸化ケイ素」という見出しは慎重に読む必要があります。この研究が示したのは、水星に存在するすべてのケイ素含有物質のうち、37%だけがSiO₂だという確定的な在庫調査ではありません。校正に用いた前提のもとで推定された、地表のケイ酸塩中のSiO₂相当量です。
BepiColomboが不確実性を検証する
この問題に答えるうえで重要になるのが、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で進める水星探査計画「BepiColombo」です。
探査機の水星輸送モジュール(MTM)は、2026年9月3日に分離する予定です。その後、同年11月21日に水星周回軌道への投入シーケンスが始まり、2027年4月から本格的な科学観測が計画されています。
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搭載機器の一つであるMERTISは、クリスチャンセン・フィーチャーを含む熱赤外線領域を観測する赤外線分光計です。
30 これまでのような水星全体を一つの信号として捉える観測とは異なり、MERTISは惑星上の地域や地質単元ごとに赤外線情報を結び付けられると期待されています。
観測によって、次のような点が検証されます。
- 低いSiO₂量は、水星の地表全体に広く当てはまるのか。
- 火山性の平原、クレーターの多い地域などでSiO₂量は変化するのか。
- 地域ごとの分布は、マントルの深い部分での大規模な溶融を支持するのか。
- 他の元素・鉱物観測と組み合わせたとき、ケイ素の一部が金属相や炭化物相に取り込まれていることを示すのか。
BepiColomboのデータが届くまでは断定できません。それでも現時点での重要な結論は明確です。水星の火山性地表は、想定よりはるかにシリカに乏しい可能性があり、その背景には、極端に高温で大規模なマントル溶融、酸素の少ない特異な化学環境、あるいはその両方が関わっているのかもしれません。