背景には、**マルウェア・アズ・ア・サービス(MaaS)**の広がりがある。これは、犯罪者が自らすべての攻撃ツールを開発しなくても、悪意ある機能をサービスとして利用できる仕組みだ。攻撃の技術的なハードルを下げ、より多くの犯罪者がマルウェアを使える環境につながる。
家庭や企業で使われるルーターなど、設定が不十分だったり、修正プログラムが適用されていなかったりするIoT機器も、ボットネットの候補になる。シンガポールでは、複数の組織で未更新のルーターが悪用され、不正な管理者アカウントの作成や、後からセキュリティ更新を適用しても残り続ける悪意あるツールの設置が確認された。
対策として、シンガポールで販売される住宅用ルーターには、2027年末までにCybersecurity Labelling Scheme(サイバーセキュリティ表示制度)のレベル2要件への適合が求められる予定だ。安全性の低い機器が侵入口やボットネットの一部になるリスクを抑え、製品の最低限のセキュリティ水準を引き上げる狙いがある。
報告書は、AIによって攻撃のスピードや規模、巧妙さが高まる脅威環境にも焦点を当てている。AIは、自然な文章のフィッシングメッセージや合成メディアの作成を支援できる。シンガポール当局も、ディープフェイクなど、加工・生成されたメディアを使う詐欺について注意を呼びかけている。
そのため、文法ミスや不自然な画像だけを手がかりに詐欺を見抜く方法は、これまで以上に頼りにくくなる。個人も組織も、重要な依頼を受けた際には別の信頼できる経路で確認し、強固な認証を導入し、端末やアカウントが侵害された場合の被害を限定する仕組みが必要になる。
ただし、これは当局に届けられた件数であり、実際に行われたすべての攻撃を数えたものではない。また、AIで作られたコンテンツは、なりすましや詐欺をより説得力のあるものにする可能性がある。報告件数が減っていても、攻撃の質や成功しやすさが変化している可能性には注意が必要だ。
提供された資料だけでは、2025年に最も多く偽装された業界や外国機関を信頼できる形で特定できないため、具体的なランキングは断定できない。
ランサムウェアの報告件数は、2024年の159件から2025年には165件へ増えた。増加幅は小さいものの、被害は中小企業(SME)に偏っていた。限られた人員や予算で十分な防御体制を整える難しさが背景にある。
SMEにとって重要なのは、対策を抽象的な計画で終わらせないことだ。定期的な更新、復旧を実際に試したバックアップ、厳格なアクセス管理、そして侵害時の対応手順をあらかじめ決めておくことが、被害の拡大を抑える。すべての侵入を防げるとは限らないからこそ、検知後に封じ込め、重要な業務を早く復旧できるかが問われる。
シンガポールでは、産業界と連携したCyber Resilience Centreを通じて、中小企業向けのセキュリティ診断や、インシデント後の復旧支援も進めている。対象となるSMEは、CISO-as-a-Serviceなどのセキュリティ助言サービスについて、最大70%の共同負担支援を受けられるとされる。
2025年に特に重要だった事案の一つが、高度持続的脅威(APT)グループのUNC3886による侵入の試みだ。同グループは、シンガポールの主要通信事業者4社すべてへの侵入を試みた。
これに対し、シンガポールはOperation Cyber Guardianを実施した。提供された報道では、同国史上最大規模の協調型サイバーインシデント対応作戦とされている。脅威は封じ込められ、通信サービスの中断や顧客データの侵害を示す証拠は報告されていない。
通信、電力、金融、医療などの重要インフラへの侵害は、1組織だけの問題にとどまらない。サービス停止や連鎖的な障害につながる可能性があるため、事業者と政府機関が情報を共有し、同時に対応する体制が重要になる。
CSAは、CII所有者に対し、2027年末までにCyber Trust Markのレベル5認証を取得することを求める。認証制度は従来型のIT対策に加え、クラウド、運用技術(OT)、AIのセキュリティにも対応するよう拡張された。
これは、指定されたシステムだけを個別に守る考え方から、接続先やサプライヤーを含む広いネットワーク全体を管理する考え方への転換だ。攻撃者が公開状態のルーター、クラウドサービス、OT環境を足がかりにして、より重要なシステムへ移動する可能性があるためである。
この人事は、2025年の脅威データの分析対象期間後に行われたものだ。そのため、2025年の調査結果そのものというより、シンガポールが次のサイバーレジリエンス強化段階へ移るなかでの指導体制の交代と捉えるのが適切だ。
今回の報告書から読み取れる要点は、次の3つだ。
シンガポールの対応は、脅威を見つける力、組織をまたいで対応する力、そして守るべき基準を制度として定着させる取り組みを組み合わせている。個人や中小企業にとっても、更新されていない機器や管理の甘いアカウントを放置しないことが、攻撃者にとっての「次の弱点」を作らないための基本になる。