Scalable Capitalは2026年8月25日、証券口座への新たなアクセス手段としてAgentic Investingを開始しました。これにより、従来のアプリやウェブサイトだけでなく、ChatGPT、Claude、Grokなどの対応AIアシスタントから、ポートフォリオや市場データを自然な文章で調べられるようになります。売買注文や積立プランの作成など、これまで証券会社の画面で行っていた操作の一部も、AIを通じて準備・実行できます。134
ただし、AIに無制限の裁量を渡す仕組みではありません。利用者は接続時に認証を行い、注文を送信する前に取引を明示的に承認する必要があります。また、接続する第三者AIの回答や推奨は、Scalable Capitalによる投資助言ではないとされています。5
Agentic Investingとは?
Agentic Investingは、Scalable Capitalの証券口座に追加されたAI対応のインターフェースです。対応するAIアシスタントに質問することで、保有銘柄や資産配分、現金、利息、ポートフォリオのリスクを分析したり、市場情報を調べたりできます。14
Scalable Capitalは、主要な汎用AIアシスタントに自社プラットフォームを開放した欧州初の銀行だと説明しています。34 ただし、これは同社による位置づけです。「欧州で唯一のAI投資サービス」であることや、AIが人間より高いリターンを生み出すことを証明するものではありません。27
MCPサーバーとCLIで接続
接続方法は大きく2つあります。
- ホスト型MCPサーバー:まずScalable Capitalのウェブサイトで、Profile → Security → Agentic Investingの順に進み、MCPへのアクセスを有効化します。その後、対応AIアシスタントのウェブ画面にScalable CapitalのMCPサーバーを追加します。サーバーのアドレスは
https://mcp.scalable.capital/mcp です。2
- ローカルCLI:利用者の端末にコマンドライン・インターフェース(CLI)をインストールして使う方法です。ターミナル操作やスクリプト、自動化、ローカルで動かすモデルを想定しています。一方、MCPは対応AIとの会話型の接続に使われます。14
MCP(Model Context Protocol)は、AIアシスタントと外部のデータやツールをつなぐための技術的な橋渡し役です。AIが利用者の指示を解釈して証券口座の機能を呼び出せるようにしますが、MCPによって本人認証や取引承認の要件がなくなるわけではありません。25
何ができるのか
Scalable Capitalの発表資料によると、利用者はAIへのプロンプトを使って、次のような操作を行えます。
- 保有銘柄、資産配分、現金、利息、ポートフォリオのリスクを分析する
- 株式、ETF、デリバティブを検索する
- ニュース、リアルタイムの価格、過去の価格データを確認する
- 売買注文を出す。ただし、送信前に本人の承認が必要
- 積立プランを作成・管理する
- ウォッチリストを管理し、価格アラートを設定する
- ポートフォリオを比較し、カスタムダッシュボードを作成する
- 税務・取引データをエクスポートし、注文上限を変更する135
ただし、利用できる機能の範囲はAI提供会社や各サービスのポリシーによって異なる可能性があります。実態としては、チャットボットが独立した投資運用者になるのではなく、会話形式のAIが証券口座の調査や対応する操作の入り口になる、という変化です。
取引前の承認とセキュリティー
今回のサービスでは、AIの自律性よりも利用者側の確認プロセスが重要です。Scalable Capitalが示している主な制御は次の通りです。
- 最終判断は利用者が行う:売買や積立プランの実行には承認が必要で、Agentic Investingへのアクセスは無効化できます。5
- 認証が必要:Scalable Capitalのログイン情報で認証し、初回接続時だけでなく一定の間隔で2段階認証を行います。5
- 取引前の説明確認が必要:コスト開示や重要情報書面(KID)など、規制上の標準的な資料を各取引について明示的に確認する必要があります。5
- 入出金は従来の経路に限定:入金・出金は引き続きScalable Capitalのウェブサイトまたはアプリから行います。5
- AIは第三者のインターフェース:AIの回答、推奨、取引はScalable Capitalの投資助言や推奨ではなく、それらに依拠するリスクは利用者が負います。5
つまり、Agentic Investingは「AIに口座を丸ごと任せる」仕組みというより、本人の承認を前提にしたAI支援型の証券取引ワークフローに近いものです。
なぜCEOは「第一歩」と表現したのか
Scalable Capitalの共同創業者兼共同CEOであるErik Podzuweit氏は、このサービスをAI活用の広がりに向けた「第一歩」と位置づけています。Reutersによると、将来的にこの機能がScalable Capitalのアプリ内に直接組み込まれれば、より多くの顧客が利用する可能性があるとの見方を示しました。827
この慎重な表現には意味があります。自然言語のインターフェースによって、投資情報の検索やポートフォリオの確認、注文準備の手間は減るかもしれません。しかし、AIが作る投資判断によって運用成績が改善することは、今回の発表資料からは確認できません。指示が簡単になっても、判断そのものが正確になるとは限らず、AIの誤った出力や投資損失の可能性は残ります。527
欧州フィンテック競争への意味
Scalable Capitalは、100万人超の顧客と、プラットフォーム上で600億ユーロ超の資産を抱えていると説明しています。58 この規模の証券口座を外部AIアシスタントから利用できるようにすることは、手数料や金融商品、アプリのデザインだけでなく、「投資家がどの画面を入り口にするか」をめぐる競争にもつながります。
欧州では、Bitpandaも口座データや機能のAI連携を進める企業として報じられています。35 AIから証券口座にアクセスする仕組みは、単発の実験ではなく、個人投資家向けサービスの新たな競争領域になりつつあります。
もっとも、今回変わるのは投資へのアクセス方法であり、投資そのもののリスクではありません。ChatGPT、Claude、Grokは情報の検索や要約、整理を手助けできますが、取引には人間の確認が必要です。また、Scalable Capitalの「欧州初」という主張も、AIによる投資成績の優位性を示すものではありません。