AIは、応募先に合わせた書類の調整や、採用プロセスの各段階で説明のつじつまを合わせる作業を支援したとみられる。ビデオ面接では、リアルタイムの文字起こしやAIが生成した回答を使ったケースも報告されている。また、翻訳ツールを使い、意思疎通や言語の問題を説明する文章を用意していたという。
調査では、1人の運用者が複数の身元を同時に管理していたことも示された。会議の録画や画面キャプチャー用のツールが使われていた点も懸念される。これらは、企業内のシステムで表示・議論された情報を外部に持ち出す可能性につながるためだ。
ただし、すべての偽プロフィールが同じ手法をすべて使っていたことまで、公開された証拠が示しているわけではない。それでも、AIによって複数の身元を運用する時間と労力が削減されていることは明らかだ。
偽の従業員は、偽の応募者よりも深刻なリスクをもたらし得る。採用そのものが、正規の認証情報と組織内の信頼を与えてしまうからだ。
社内に入った運用者がアクセスできる範囲は、職務内容や企業の権限管理によって異なる。しかし場合によっては、ソースコード、社内ツール、顧客情報や財務情報、経営戦略に関する議論、各種の企業認証情報などが露出する可能性がある。リモート勤務では、どの人物がどの端末を操作しているのかを継続的に確かめることも難しくなりやすい。
さらに、この問題には地政学的な側面もある。PurpleDeltaは、北朝鮮による収益獲得や情報収集と関連付けられている。北朝鮮のITワーカーをめぐるより広範な活動については、不正な雇用で得た収益が制裁対象の国家プログラムや大量破壊兵器関連の資金に結び付くと報じられている。
PurpleDeltaは採用する企業を狙う一方、一般的な求人詐欺は仕事を探す個人を狙う。標的は異なるが、いずれもリモート採用、オンライン上の信頼、本人確認の弱さを悪用している。
最近の例では、BBB(米国の消費者・企業向け非営利団体)ノース・アラバマが、「Parkway Greenhouse LLC」の名前で宣伝されたリモートのデータ入力求人について注意を呼びかけた。応募者からは、すぐに採用通知が届いた後、銀行口座情報を求められたとの報告が寄せられている。
消費者が報告する求人詐欺の被害も増えている。米連邦取引委員会(FTC)のデータによると、求人および偽人材紹介会社詐欺の被害申告額は、2020年の9,000万ドルから2024年には5億100万ドルへ増加した。申告件数も同じ期間にほぼ3倍になっている。 BBBも、雇用詐欺に関する苦情が2025年に前年の2倍超となったと報告している。
企業を狙うケースでも、求職者を狙うケースでも、共通する教訓は同じだ。説得力のあるデジタルプロフィールは、それだけで実在する人物、正規の雇用主、申告どおりの所在地を証明するものではない。
Recorded Futureが推奨する基本方針は、書類や履歴書、オンラインプロフィールだけでなく、そのアカウントを実際に操作している人物を確認することだ。複数の情報を組み合わせた、採用後も続く確認体制が求められる。
これらは、1つの項目だけで合否を決める仕組みにすべきではない。見慣れた端末、もっともらしい書類、実施に成功したビデオ通話であっても、複数の偽プロフィールを組織的に運用する相手によって偽装される可能性がある。
PurpleDeltaの事例が示すのは、本人確認を採用決定の時点で終わらせてはならないということだ。重要なのは、履歴書が本物らしく見えるかではない。同じ確認済みの人物が、確認済みの場所から、許可された同じ端末を使って、雇用期間を通じて業務を行っているかである。