2026年8月22日前後、イスラエルのセファルディ系首席ラビ、ダビド・ヨセフ師が、パレスチナ人の民族的アイデンティティや土地に対する権利を否定し、ガザへのユダヤ人の帰還を支持する趣旨の発言をしたと複数の媒体が報じました。135
ただし、以下は報道された発言の整理です。ヨセフ師の主張は、ガザやヨルダン川西岸の主権、あるいはそこに暮らす人々の権利について国際的に確立された事実を示すものではありません。
ヨセフ師は何と発言したと報じられたのか
報道によると、ヨセフ師は「パレスチナ人という民族は存在しない(There is no such thing as a Palestinian people)」、そしてパレスチナ人には「権利がない(they have no rights)」と述べました。また、ガザに加え、ヨルダン川西岸地区のナブルス、ジェニンもイスラエルまたはユダヤ人に属するとの主張を示したとされています。15
さらに別の報道では、ヨセフ師が「ガザはわれわれのものだ(Gaza is ours)」「われわれはそこへ戻る」と語ったと伝えられています。ガザ地区の破壊と、将来的なユダヤ人の帰還・再定住を結び付ける発言も報じられました。414
報道の一つによれば、ヨセフ師は、イスラエルが2005年にガザから撤退した後、旧グシュ・カティフ入植地群のシナゴーグが焼かれたり冒涜されたりしたことに言及し、「そのことを理由に神がガザ全体を破壊し、われわれはそこへ戻る」という趣旨の発言をしたとされています。4
首席ラビという立場が持つ意味
ヨセフ師は、イスラエルのセファルディ系首席ラビで、ヘブライ語で「リショーン・レツィヨン」とも呼ばれる宗教上の高位職にあります。2024年に選出され、イスラエルの主要な宗教当局の一人として活動しています。19
そのため、今回の発言は、無所属の宗教指導者による私的な意見とは異なる象徴的・制度的な重みを持ちます。首席ラビの立場から領土拡張やパレスチナ人の権利否定を語ることで、強硬な領土論に宗教的な正当性が付与されたと受け止められる可能性があります。
一方で、首席ラビであること自体が、発言をイスラエル政府の公式政策にするわけではありません。ヨセフ師がガザ停戦交渉の交渉担当者だったことを示す報道もなく、発言によって停戦合意の条項が正式に変わったという情報も確認されていません。
なぜグシュ・カティフ博物館での発言だったのか
グシュ・カティフ博物館は、かつてガザ地区に存在したイスラエル人入植地群に関連する施設です。イスラエルは2005年の「撤退計画」によって、同地区の入植地から撤退しました。418
ヨセフ師の訪問は、撤退後にグシュ・カティフのシナゴーグが焼かれた出来事から21年となる時期の記念行事と結び付いていたと報じられています。418
この場所と記念日の文脈を踏まえると、「ユダヤ人がガザへ戻る」という発言は、抽象的な神学や歴史認識にとどまらず、撤退によって失われた入植地の再建を想起させる政治的なメッセージとして響きます。
発言が出たタイミング:不安定な停戦と続く仲介
発言が報じられた時期、ガザでは脆弱な停戦の履行と次の段階に向けた協議が続いていました。エジプト、カタール、トルコは、イスラエルによる新たな攻撃を非難し、攻撃の激化が地域的・国際的な取り組みを危うくしていると警告していました。31324146
米国も、より広い仲介プロセスに関与していました。報道では、エジプト、カタール、トルコ、米国が、停戦合意を実施する仕組みの整備や交渉の前進に取り組んでいるとされています。333643
ヨセフ師は交渉の当事者ではないため、発言がそれだけで合意を法的・正式に変更することはありません。しかし、ガザの破壊や領土拡張、ユダヤ人の再定住を肯定する言説は、イスラエルの有力な宗教関係者の一部が、撤退や復興、交渉による戦闘終結ではなく、恒久的な支配を支持しているのではないかという懸念を強める可能性があります。
これは、発言の内容とタイミングから考えられる政治的影響についての評価であり、仲介国の立場が実際に変更されたことを示す証拠ではありません。
CAIRは非難し、米国の対応を要求
米国のイスラム系市民権・権利擁護団体「米国イスラム関係評議会(CAIR)」は、報じられた発言を「憎悪に満ちた」言説だとして非難しました。330
CAIRは、ひとつの民族全体の存在や基本的権利を否定する言葉は、パレスチナ人を非人間化し、大規模な暴力が正常化・正当化されかねない思想的、宗教的環境をつくると主張しました。330
同団体は米国政府に対応を求めています。ただし、提供された情報が記録しているのはCAIRによる非難と要請であり、ヨセフ師の発言を直接の理由とする、その後の米国政府の政策変更ではありません。3
国際的な反応はどうだったのか
発言は、パレスチナ系、地域系、権利擁護系のメディアを通じて広まり、動画やソーシャルメディア投稿で引用が拡散しました。5111215
一方、確認できる報道の範囲では、米国政府、国連、エジプト、カタール、トルコ、主要な欧州政府が、ヨセフ師の発言を名指しして出した大規模な公式声明は確認されていません。
公式反応が限定的だったことは、発言への賛同を意味しません。ただし、今回の件は、影響力を持つ宗教指導者による公的な言説と、イスラエル政府や停戦仲介国による拘束力のある政策決定を区別して見る必要性を示しています。