上海で9月17日から19日に開催された「HUAWEI CONNECT 2026」で、ファーウェイは「エージェントAI時代のフルスタック事業者」という立ち位置を前面に出した。主張の軸は明快だ。長時間にわたり処理を続け、大量の文脈を扱うAIエージェントを本番環境で動かすには、AIアクセラレータだけでは足りない。計算資源、メモリー、ネットワーク、クラウド運用、電力設備、業種別の導入支援までを協調させる必要がある、というものだ。
10
2
推論のボトルネックに踏み込むOceanStor M900
今回の発表で最も特徴的だったのが、ハイパースケールデータセンターでのAI推論向けに設計されたOceanStor M900 Context Memory Storageである。SuperPoD向けの共有コンテキストメモリー層として位置付けられ、長いコンテキストや複数ステップのタスクを伴うエージェント推論で、オンチップメモリーとDRAMの容量制約を緩和することを狙う。
4
5
LLMの推論では、過去の入力・生成内容を再利用するためのKVキャッシュが重要になる。文脈が長く、対話や作業が継続するほど、このキャッシュの容量と読み書き効率が課題になりやすい。M900はファーウェイの相互接続技術UnifiedBusを使い、高速なメモリー階層とSSDをまたぐ、グローバル共有型・階層型のKVキャッシュプールを構成するという。
さらに同社は、CPU、ネットワークコントローラー、NANDコントローラーの機能統合により、NPUとSSDの間でワンホップの直接アクセスを可能にすると説明している。
2
4
目標は、アクセラレータ1基が利用できるギガバイト級のコンテキストメモリーを、共有可能なペタバイト級リソースへ広げることだ。第三者報道を通じた同社の発表値では、M900の単一クラスタはKVキャッシュ容量を最大64PBまで提供できるとしている。
11 また、ハイブリッドメディアと保持アルゴリズムにより、SSDの読み書き寿命を16倍に延ばせるとも主張する。
2
これらの仕様や効率性は、独立機関のベンチマークではなくファーウェイによる製品発表上の主張である。ただし戦略面では、KVキャッシュと長文脈のデータ取得を「ストレージの付随機能」ではなく、AI推論を左右する中核インフラとして扱い始めた点が重要だ。
UnifiedBusで計算とメモリーを一体化
M900と並んで、ファーウェイはTaiShan 950 SuperPoDのアップグレードや、UnifiedBusを基盤とする計算アーキテクチャも発表した。UnifiedBusは、ラック内、ラック間、さらにクラスタ間の接続に使われる設計で、単一ラックから最大100万NPU規模のクラスタまで弾力的に拡張できるとしている。
2
7
同社の見立てでは、エージェントAIのワークロードは、独立したアクセラレータ群を置くだけでは十分に処理できない。計算とメモリーが密に接続され、必要な文脈を効率よく参照できる構成が必要になる。SuperPoD、クラスタ、コンテキストメモリーの共通ファブリックとしてUnifiedBusを据えることで、従来の「計算基盤+ストレージ」という分離型構成より統合度の高い選択肢を打ち出した。
2
7
クラウド、モデル、エージェント開発環境まで
Huawei Cloudは、エージェントAI向けクラウド基盤として最新版の**AI Cluster Service(AICS)**をグローバルに発表した。同社はAICSを、AIインフラ、モデルサービス、企業向けエージェント開発ツールを組み合わせる広範なプラットフォームの一部と位置付けている。
3
モデル層では、**Agentic Model as a Service(MaaS)**を展開する。複数のモデルを集約し、開発者が自前でデプロイを管理せずにモデルサービスを呼び出せるようにする構想で、アプリケーションやエージェントの開発者にモデル能力を大規模に提供する狙いだ。
3
13
企業がエージェントを構築・配備・管理するための基盤としては、AgentArtsを強調した。イベント資料では、オープンソース版のopenJiuwenにも言及している。
13
またHuawei Cloud Stackは、エージェント対応のハイブリッドクラウドアーキテクチャを、次の4要素で説明した。
- 汎用計算とAI計算を統合する、俊敏で弾力的なクラウド基盤
- データ、計算資源、トークンを結ぶAIネイティブの能力ハブ
- 大規模なエージェントの開発・実行を支えるエージェントネイティブ基盤
- エージェントのライフサイクル全体をカバーするインテリジェント運用とエンドツーエンドのセキュリティ
31
つまり、企業がクラウドとオンプレミスの両方でAIを運用しながら、自社データ、計算資源、モデル選択、エージェント運用を接続できる環境を目指す。
「トークンを運ぶ」ネットワークへ
ネットワーク分野では、AI Fabric、AI WAN、AI Campusを包含するStellar AI Network Solutionを更新した。ファーウェイが挙げる設計方針は、安全でインテリジェントな接続、効率的な計算能力の活用、ロスレス伝送、アプリケーションの高速化だ。
20
分散AIシステムでは、アクセラレータの性能だけでなく、アクセラレータ間、クラスタ間、拠点間での通信が学習・推論の性能を制約する。Stellar AI WANでは、1,000km超の距離でも計算能力をロスレスで伝送し、遠隔計算をよりローカルに近い感覚で使えるようにするとしている。
23
データセンターを「電力と計算を協調させる設備」に
ファーウェイのAIデータセンター戦略は、サーバーやネットワークだけにとどまらない。グリッド連携型AIデータセンターでは、高密度AIキャンパスを単なる大口電力消費者ではなく、電力系統、蓄電、冷却、計算ワークロードと連携するシステムとして捉える。
29
その指標として同社が掲げるのが「tokens per watt(ワット当たりトークン)」だ。消費電力1単位当たりに得られる有用なAI出力を高めるという考え方である。提案する電力アーキテクチャは、系統に配慮したUPSと系統形成型エネルギー貯蔵システムを中心とする複数入力・複数出力(MIMO)設計で、将来的にはエネルギールーターへの統合を目指す。
29
30
会場では、SuperPoD/SuperCluster、汎用計算・ストレージ、エッジ向け基盤、データセンターネットワーク、設備をまたぐAIデータセンター関連製品も披露した。
18 電力、冷却、エネルギー管理を、施設運用の周辺領域ではなくAIシステムの性能構成要素として扱う姿勢が一貫している。
実証実験から業界導入へ――SCALE
AIの技術基盤だけでは、実証実験を業務システムへ移せない。そこでファーウェイは「Huawei + Partners」の支援システムとしてSCALEを発表した。パートナーが直面するソリューション開発、統合検証、導入、運用・保守、システム連携の課題を支援する狙いである。
33
34
支援項目として、シナリオ別ソリューション、共同イノベーション、連動したマーケティング、地域サービス、一貫した品質、効率的な協業を列挙する。なお同社のリリースは「5種類の支援」とする一方、記載されている分類は6項目ある。
33
ここでも狙いは、個別に仕立てるPoCに依存するのではなく、インフラ、ソフトウェア、業界向け資産、パートナーサービスを組み合わせ、再現可能な導入モデルへとパッケージ化することにある。
発表全体から見えるもの
HUAWEI CONNECT 2026で示されたのは、下層に半導体とSuperPoD、推論向けにUnifiedBusとコンテキストメモリー、その上にクラウドクラスタ、モデル利用基盤、エージェント開発環境を置き、ネットワーク、電力設備、パートナーによる導入支援で全体を囲む、垂直統合型のAI提案だ。
ファーウェイが強調した差別化は、単純な計算能力の増強ではない。長文脈でメモリー消費の大きい、継続稼働型エージェントに向けたトークン生産システムである。OceanStor M900は、AI推論で増大するKVキャッシュのコストと容量要求に対処するため、この構想の中心に置かれている。
2
4
イベントで示された容量、性能、可用性、効率に関する数値の多くは、ファーウェイ自身の発表に基づくものであり、ベンダーの主張として評価する必要がある。それでも方向性は明確だ。ファーウェイは、企業がエージェントAIをデモ段階から持続的な本番利用へ進める際に必要となるインフラ層を、自社で統合・提供することを目指している。
2
3
31