中国は2026年8月、上海で開かれた核融合エネルギー会議で、次世代実験施設「HL-4(Huanliu-4、中国環流四号)」の詳細を明らかにした。HL-4の主眼は、プラズマ温度の記録更新だけではない。核融合炉に近い熱負荷、放射線、電磁力・機械応力の下で、高温超伝導(HTS)磁石が長期的に信頼性を保てるかを検証することにある。 37
これは商用核融合発電が実現したという発表ではない。中国が、プラズマ研究の成果を、磁石や材料、極低温設備、電源などを含む「炉をつくるための工学」へとつなげようとしていることを示す動きだ。
HL-4は「温度競争」の次にある工学ステップ
HL-4は、中国核工業集団(CNNC)傘下の西南物理研究院が進めてきた「HL」シリーズの流れに位置づけられる。同シリーズにはHL-1、HL-2Aがあり、現在の主要な稼働装置としてHL-3がある。HL-4は、単に新たな高温プラズマ記録を狙う装置というより、将来の核融合炉を意識した実験プラットフォームとして構想されている。
技術面での中心課題は、強い磁場を生み出す高温超伝導磁石だ。会議報道によると、HL-4は、核融合環境の中で25テスラ(T)のHTS強磁場磁石の信頼性を検証することを目指す。中国側の報道では、定常運転型の燃焼プラズマ実験プラットフォームとされ、核融合利得(Q値)は5を超える計画とされている。ただし、これは設計上の目標であり、実際の運転結果ではない。 23
トカマクが一時的に非常に高温のプラズマをつくれるかどうかと、磁石や周辺システムが繰り返し安定して動作するかどうかは、別の問題だ。将来の発電炉には、強い熱、放射線、電磁力、構造上の応力に耐える機器を、長時間かつ反復的に運転する能力が求められる。HL-4は、その難題に正面から取り組む装置といえる。
HL-3が2025年に示した「1億度」
HL-4の前段には、HL-3によるプラズマ物理の進展がある。2025年、HL-3はイオン温度約1億2,000万℃、電子温度約1億6,000万℃という「ダブル1億度」級の運転を達成したと報じられた。 3642
イオン温度については、CNNCが2025年3月の発表で1億1,700万℃とした一方、その後の報道では1億2,000万℃と表現されるなど、数字にはわずかな差がある。 3442 重要なのは、HL-3が先進的な核融合プラズマ研究で目安となる1億℃級の運転を示したことであり、商用電力を生み出したことではない。
HL-3については、2027年ごろに改良装置で燃焼プラズマ実験を行う計画も報じられている。 3236 これは、外部から加熱するだけのプラズマから、核融合反応による自己加熱が重要になる「燃焼プラズマ」の挙動を調べる段階への移行を意味する。
25テスラ磁石をめぐる別のロードマップ
HL-4の発表と並行して、磁石の産業化に向けた別の取り組みも示された。中国聚变能源を中心に、上海超導、東部超導、上海交通大学、上海電気核電集団など、企業・研究機関9団体で構成する長江デルタのイノベーション連合体が、HTS高磁場トカマク磁石の開発ロードマップを発表した。取り組みはHL-4に必要な技術を念頭に置いている。 1819
報じられた主な目標は次の通りだ。
- 2028年まで:最初の25テスラHTS強磁場磁石について、研究開発・試験ラインを整備する。
- 2030年まで:試作磁石の開発を完了する。
ここで注意が必要なのは、磁石の試験ライン完成、試作磁石の完成、HL-4本体の完成・運転開始は、それぞれ異なる節目だという点だ。試験ラインが先に整備されても、試作機が完成するとは限らない。また、試作磁石が完成したとしても、核融合環境で長時間運転できることが直ちに証明されるわけではない。 2123
この連合体の動きからは、中国の核融合戦略が研究機関単独の取り組みにとどまらないことも見えてくる。超伝導線材、磁石製造、極低温工学、電源、構造設計、試験設備を一体的に整えなければ、核融合装置を安定したエネルギーシステムへ発展させることはできない。
582トンのBEST磁石が示すこと、示さないこと
2026年7月に試験を終えた582トンの超伝導トロイダル磁場磁石は、HL-4とは別のプロジェクトに属する。対象は「燃焼プラズマ実験超伝導トカマク(BEST)」で、中国科学院プラズマ物理研究所は、トロイダル磁場磁石や高温超伝導中心ソレノイドコイルなど主要な超伝導磁石システムについて、国内技術による開発と全パラメーター試験を完了したと発表している。 2231
大型超伝導磁石は、トカマク内のプラズマを磁場で閉じ込めるための中核部品だ。そのため、582トン級の磁石を製造し、受け入れ検査と全負荷試験に通したことは、製造力とシステム統合能力を示す重要な工学的成果といえる。
ただし、試験に合格したことは、核融合による正味の発電電力を生み出したことを意味しない。BESTは建設中の実験プロジェクトで、2027年の完成と、2030年ごろの核融合発電実証を目標としている。 2552
3つのプロジェクトを整理すると、役割は次のように異なる。
- HL-3:より厳しいプラズマ条件の実証を進める装置。
- HL-4:核融合環境に近い条件で、炉向けHTS磁石の性能と信頼性を検証する計画。
- BEST:燃焼プラズマと発電実証を目指す、別系統の超伝導トカマク計画。
相互に関連する中国の核融合開発だが、これらは同じ成果を指すものではない。
中国の2030年戦略における位置づけ
中国の2026~2030年の第15次五カ年計画では、核融合エネルギーが先端技術の重点分野の一つに位置づけられている。分析では、戦略産業における技術自立や国内の供給能力の強化が重視されていると指摘されている。 4651
そのため、HL-4、25テスラ磁石のロードマップ、BESTを組み合わせて見ると、中国が進めているのはプラズマ研究だけではなく、核融合サプライチェーンの構築でもある。超伝導材料、大型磁石、極低温システム、電源、構造部材、試験・保守技術まで、国内で整備することが狙いだ。
2030年までに核融合やその他の未来産業へ「3,000億元超」を投資するという数字は、慎重に扱う必要がある。提供された情報では、この金額は核融合だけに限定した予算ではなく、複数の未来産業を含む推計として示されている。HL-4専用、あるいは核融合専用の国家予算として確認された数字ではない。 49
したがって、現時点で安全に言えるのは、核融合が中国の戦略的な投資分野になっているということだ。正確な国全体の核融合向け配分額までは、今回の資料だけでは確定できない。
結論:25テスラは「発電開始」ではなく、炉への距離を測る数字
HL-4は、目を見張るプラズマ実験と、将来の核融合炉に必要な工学との間にある隔たりを埋めようとする中国の試みだ。HL-3は高温プラズマの物理で前進を示し、BESTの582トン磁石は巨大な超伝導部品を製造・試験する能力を示した。そしてHL-4は、高温超伝導磁石が核融合装置内部の過酷な条件に耐えられるかという、より実用に近い課題へ踏み込む。
世界の核融合開発競争において意味のある一歩であることは間違いない。しかし、それはあくまで炉の実現に向けた一歩だ。商用核融合発電がすでに準備できたことを示す証明ではない。