中国の核融合開発は、役割の異なる2つの装置を並行して進める構図だ。四川省成都市のHL-3は、現在運転されているトカマク型の研究装置。これに対し、上海で計画される**HL-4(環流4号)**は、将来の炉に不可欠な高磁場の超伝導磁石を実証することに主眼を置く。
ここで大切なのは、HL-4で掲げられた性能は設計目標である点だ。HL-4は運転中の装置でも、商用電力を送る発電炉でもない。
2
6
HL-4は何を目指すのか
HL-4は、第4世代の磁場閉じ込め方式による核融合実験施設として構想が公表された。中国側の説明では、25テスラの高温超伝導(HTS)磁石を用いる、世界初の高磁場・定常燃焼プラズマ実験プラットフォームを目指すという。ただし、これは達成済みの成果ではなく、計画上の位置付けである。
2
7
47
狙いは単純にプラズマ温度の記録を伸ばすことではない。核融合装置内で高温超伝導磁石が安定して使えるかを検証することだ。実際の核融合環境では、熱、放射線、強い電磁力、機械的な荷重が同時に加わる。
14
46
なぜ「25テスラ」が重要なのか
中国融合エネルギー社が主導するコンソーシアムは、HL-4向けに高温超伝導・高磁場磁石の開発計画を示した。2028年までに25テスラ磁石の開発・試験ラインを整備し、2030年までに試作磁石を完成させることが目標だ。
1
9
10
ただし、試作磁石の完成は、核融合炉全体に組み込まれた磁石システムの実証とは異なる。さらに、統合された核融合実験装置と、電力を安定供給する発電所も同じではない。
その意味でHL-4は、発電実証機というより工学的な検証の場と捉えるのが適切だ。高磁場HTS磁石を製造し、運用し、保守できることを、核融合に近い厳しい条件で示せるかが問われる。
IAEA総会で示された国際協力
国際原子力機関(IAEA)第70回総会の会期中、中国核工業集団(CNNC)は核融合工学の実用化に向けた国際協力を強調した。CNNCはHL-3の進捗と共同実験プログラムを発表し、海外パートナーに実験参加を呼びかけた。
3
またITER機構は、総会期間中に中国融合エネルギー社と覚書を締結したと報告している。
44 提供された公表情報から確認できるのは協力の方向性までであり、タイとの個別協力について、技術作業の範囲、資金、成果物といった詳細までを断定することはできない。
HL-3が担う「いま」のプラズマ研究
HL-3は、成都市の西南物理研究院(SWIP)にある銅導体コイルのトカマク装置だ。ITERはHL-3を、先端的な核融合物理を研究し、ITERに有用なスケーリング情報を提供する設備と位置付けている。
39
2025年、HL-3はイオン温度1億1700万℃、電子温度**1億6000万℃**を報告した。IAEA会議資料では、核融合三重積も0.67×10²⁰ m⁻³・keV・sを上回ったとされる。
15 また、イオン温度がおよそ10keVとなる高温イオン運転も報告されている。
12
HL-3はSWIPとITER機構の協力深化を通じ、ITERの「サテライト装置」となった。ITERの物理研究・運転を支援するため、2027年には重水素・三重水素(DT)プラズマ実験キャンペーンが計画され、国際チームも共同研究に参加している。
16
これらは重要な研究上の前進だが、送電網への発電を実証したことを意味しない。高温達成やDT実験計画は、利用可能で保守可能、かつ経済性を備えた核融合発電所をつくるための課題の一部にすぎない。
実験装置から発電へ、残る長い工程
中国が示す磁場閉じ込め核融合のロードマップでは、実験装置の先に工学試験炉、さらに原型発電所が配置されている。あるロードマップでは、工学炉で定常運転やトリチウム自給を試験し、2050〜2060年に発電を検証する原型核融合発電所の建設を目指すとしている。
45
したがって、「2050年ごろの商用核融合」という表現は、確定した納期ではなく、長期戦略上の目標として読むべきだろう。商用化の信頼性を高めるには、長時間の統合運転、トリチウム燃料サイクルと自給、発電所規模での検証を実現しなければならない。
45
標準化の動きも始まっている。2026年8月には、実験用磁場閉じ込め核融合施設での超音速分子ビーム入射による燃料供給技術を対象とするISO 19991:2026が発行された。CNNCはこれを、核融合燃料供給分野で初のISO規格としている。
18
結論
HL-4計画の意義は、コンパクトで定常運転を狙うトカマクにとって大きな工学的制約となる、25テスラの高温超伝導磁石を核融合環境で信頼性高く動かせるかという問題を正面から扱う点にある。
一方でHL-4は、あくまで計画中の実験プラットフォームだ。HL-3の高温プラズマ成果と2027年のDT実験計画は中国の研究基盤を強め、HL-4は装置・システム面の課題を前進させる役割を担う。どちらも、それだけで商用核融合発電の成立を示すものではない。
14
15
16