投資家にとって重要なのは、ビットコインの価格が強制売りだけでなく、「限界的な資金」をめぐる競争にも左右されたという点だ。資金流入が弱まると、値動きの大きい資産ほど、投資家のポジション解消や償還に敏感になりやすい。
ブラックロックは、2026年5月29日までの仮想的な10年間のローリング分析を更新した。株式と債券を60対40で組み合わせた一般的なポートフォリオについて、株式の2%分をビットコインに置き換えた場合、シャープレシオは0.81から0.96に上昇したという。
シャープレシオは、取ったリスクに対してどれだけのリターンを得られたかを見る指標だ。数値が高いほど、一般にリスク調整後の運用成績が良かったことを示す。
一方、最大ドローダウンはマイナス20.3%からマイナス20.9%へと小幅に悪化した。ブラックロックはこの結果を、少量のビットコインを組み入れても、ポートフォリオ全体の最大下落幅を大きく変えずに、過去のリスク調整後リターンを改善できた例として示している。
ただし、これは過去のデータを使ったモデル上の検証だ。将来も同じ結果になることを予測したものでも、運用成果を保証するものでもない。
ブラックロックが示したビットコインとS&P500種指数の10年間の相関係数は0.18だった。 相関係数は、2つの資産がどの程度同じ方向に動くかを示す指標で、1に近いほど同じ動き、マイナス1に近いほど逆方向の動きになる。
もちろん、危機時にビットコインが株式と同時に下落する局面はある。投資家が一斉にリスクを落とす局面では、相関が一時的に高まりやすいからだ。しかしブラックロックは、そうした相関上昇は、混み合ったポジションや市場全体のレバレッジ解消による一時的な現象であり、株式との恒久的な構造関係を意味しないと主張している。
この点が、分散投資の論拠の中心となる。ビットコインは危機のたびに株式の反対方向へ動く「万能なヘッジ」ではない。それでも、長期的には従来の資産とは異なる要因で価格が動く可能性がある。ブラックロック自身も、ビットコインには高いボラティリティがあり、市場環境によって振る舞いが変わる「二面性」があると説明している。
ブラックロックは、機関投資家がビットコインへアクセスするための市場インフラが拡大していることも、長期的な普及シナリオを支える材料として挙げた。現物ビットコインETPに加え、シティが計画するカストディーサービス「Custody+」などの保管インフラ、機関投資家による保有拡大がその例だ。
同レポートによれば、ブラックロックのiShares Bitcoin Trustの純資産は8月17日時点で約480億ドル。7月下旬には顧客の買いが再び見られた一方、米国の現物ビットコインETFの平均的な買い手は約22%の含み損を抱えていたとされる。
これらの数字が示すのは、投資家が無傷だった市場ではなく、損失を抱えながらも投資商品、保管サービス、取引経路が発展し続けている市場だ。ブラックロックは、このインフラの拡充を短期的な資金流出とは別の、より長い普及過程の一部と位置付けている。
ブラックロックのメッセージは、ビットコインが安全資産になった、あるいは急落後に保有比率を増やすべきだというものではない。あくまで、株式や債券とは異なる値動きの源泉を持つ可能性がある資産を、ポートフォリオの一部に限定的に加えるという考え方だ。
同社は、供給量に上限があり、中央集権的な発行主体を持たず、数学とコードに基づくルールで運用されるビットコインが、長期的には独自のリターン要因を持ち得ると説明している。財政圧力が続き、財政再建の見通しが限られる環境では、こうした性質が戦略的な価値につながる可能性があるという。
要するに、今回のレポートは価格目標を示すものではなく、ポートフォリオ構築についての議論だ。ビットコインは、分散投資の一要素として一定の役割を持ち得る。しかし、50%規模の下落が起こり得る資産である以上、組み入れ比率の管理が重要になる。ブラックロックは、今回の急落がレバレッジの危険性を改めて浮き彫りにした一方、それだけで長期的な分散投資の論拠が構造的に崩れたとは結論付けていない。
なお、これはブラックロックによる投資上の見解であり、投資助言や将来の運用成果を保証するものではない。