この発言は一貫した主張の延線上にある。フォーリーCEOは以前から、EUの独占禁止法が欧州企業の垂直統合を妨げ、SpaceXのような競争力を生む妨げになっていると批判。SpaceXが部品の80%を内製するのに対し、欧州企業は法律で分断されたサプライチェーンを強いられていると指摘していた。また、EUの一部規制を「管理不能(unmanageable)」と評し、航空業界の脱炭素化に必要な巨額投資を呼び込む環境が損なわれていると訴えていた。
開所式の会場自体が、エアバスの戦略転換を象徴していた。新ラインは、2021年に生産を終了した超大型機A380の組立工場だった施設に設置されたものだ。A321neoは現在、A320ファミリーの受注残の約65%を占める主力機種であり、旧A380ラインの転用は市場の現実への直接的な対応と言える。
エアバスは2020年1月にこの転用を正式決定し、2023年12月にはトルコの格安航空会社ペガサス航空向けに、この施設で組み立てた初号機を引き渡していた。今回開所したラインはその「第2近代化ライン」であり、生産能力と柔軟性をさらに高めるものだ。ただし、これは古い非効率なラインを置き換えるものであり、全世界の工場数を増やすわけではない。皮肉なことに、この新ラインが創出する雇用は約700人と、同じ場所でA380を製造していた時の半分程度にとどまる。
フォーリーCEOが欧州コストを非難する一方で、エアバスの生産基盤はリスク分散と市場アクセス獲得を目的としたグローバルなネットワークへと拡大を続けている。同社は現在、A320neoファミリー向けに世界10箇所の最終組立ラインを運営しており、欧州(ツールーズ、ハンブルク)、米国(モービル)、中国(天津)に分散する。天津では2025年10月に第2ラインが開所し、2026年初めにフル稼働している。
だが、生産目標の達成は遅れている。2026年2月の年次記者会見で、エアバスはプラット&ホイットニー社が約束通りのエンジン数を納入できないことを受け、月産75機の目標達成を2027年末まで延期すると発表した。同年6月9日の社内向け書簡では、フォーリーCEOが第1四半期の業績を「弱い」と評し、「より短い時間でより多くのことを成し遂げる」よう社員に求めた。同氏はベルリン航空サミットでも、「複雑なシステムを製造する企業にとって、成長を持続するのは本質的に困難」と認めている。
フォーリーCEOがツールーズで示した最も重要な主張は、明らかに政治的なものだった。彼が「競争力の問題は来年のフランス大統領選で取り上げられるべきだ」と直接要求したことで、新工場の開所式は産業政策への圧力キャンペーンへと変貌した。
欧州の産業界では、米国のインフレ抑制法(IRA)のような大規模な国家支援策を羨望の目で見る声が強まっている。フォーリーCEOの警告は、ブリュッセルでのフォーラム・エウロパや航空サミットなど様々な場で繰り返されており、欧州のトップ企業が、規制と財政の抜本的な見直しなしには、欧州でのモノづくりが米国やアジアに対して恒久的に不利になるとの危機感を強めていることを反映している。