ESA(欧州宇宙機関)は、The Exploration Company(TEC)に対し、再使用可能な貨物カプセル**「Nyx(ニクス)」を用いるALADDINフェーズ2のサービス契約を授与した。契約総額は最大7億6000万ユーロ**で、低軌道へ貨物を輸送し、地球へ回収する欧州独自の商業サービス構築を目標とする。ALADDINは、従来「LEO Cargo Return Service(LCRS)」と呼ばれていた計画の後継だ。
2
契約の中身:確定3億1000万ユーロ、追加分はオプション
ALADDINは「Autonomous LEO Accelerated Demo Docking to ISS Node」の略称。フェーズ2では、開発初期段階から進み、実運用を想定したシステム完成と軌道上実証を目指す。中心となるのが、国際宇宙ステーション(ISS)への自律ドッキングだ。
2
契約は二層構造になっている。
- 3億1000万ユーロ:Nyxによる初回の貨物実証ミッション向けに確定
- 最大4億5000万ユーロ:追加で最大2回の貨物輸送サービスに対するオプション
追加サービスは、ISS向けだけでなく、将来の商業低軌道拠点向けとなる可能性もある。ただし、オプション分は将来あらためて確定する条件付きの枠であり、現時点で全額が確定しているわけではない。
2
重要なのは、ESAが単に機体開発費を支援するのではなく、初回の輸送サービスを発注し、後続ミッションの需要も選択肢として提示している点だ。公共機関による研究開発補助から、民間企業が提供する宇宙輸送サービスの調達へ、重心を移す設計といえる。
実証ミッションの資金と、未決定の打ち上げ機
フェーズ2に進むにあたり、TECには技術面だけでなく商業面での実行能力も求められた。初回実証ミッションの資金は、**ESAが60%、民間投資家が40%**を負担する方式である。
2
ESAは、欧州製ロケットを実証飛行に使用するフェーズ2事業者に対し、最大5000万ユーロのインセンティブを提案している。ただし、これは打ち上げ支援策であって、Nyxの打ち上げ機が決まったことを意味しない。提供資料からは、TECが最終的にどのロケットを選ぶかは確認できない。
13
なぜ欧州の宇宙戦略にとって重要なのか
欧州には現在、低軌道の宇宙ステーションへ貨物を送り、さらに地上へ回収する能力を、継続的に独自運用する体制がない。NyxはISSに加え、ISS退役後に想定される民間宇宙ステーションも視野に入れ、その空白を埋める構想だ。
2
ESAの役割は、民間サービスの最初の大口顧客、すなわちアンカー顧客に近い。初回ミッションを確定発注し、後続サービスの可能性も示すことで、TECには一定の需要見通しが生まれる。一方で、機体開発、産業基盤の構築、民間資本の調達はTECが担う。この分担によって、欧州発の商業宇宙輸送事業を成立させようとしている。
2
TECの資金調達とSeries Cの位置づけ
TECによると、Nyxの開発は当初、民間資金で始まった。前身のLCRSフェーズ1では、ESAは2024年にTECとThales Alenia Spaceへそれぞれ2500万ユーロを提供し、競合する貨物回収サービスの開発を進めさせていた。
2
27
TECは2024年11月に1億5000万ユーロのSeries Bを発表。当時の報道では、累計調達額はおよそ2億3000万ユーロとされた。
40
43 さらに2026年9月には、Nyxの開発とStormエンジンの取り組みを進めるため、4億5000万ドルのSeries Cを発表した。これにより累計資金は約6億8000万ドルと報じられている。
4
5
ESA契約とSeries Cは、資金の出どころが異なる。ESAがSeries Cを出資したわけではない。しかし、確定した実証サービス契約と追加発注の可能性はNyxの事業性を具体化し、民間資金はTECが必要な自己資金比率を満たして計画を実行する助けになる。この相互補完の関係は公表された資金構造からの推論である。
2
4
Thales Alenia Spaceとの競争はどうなったのか
Thales Alenia SpaceはTECとともに、2024年のフェーズ1で選ばれた企業だった。
27 ただし、ESAのフェーズ2発表でNyxのサービス契約を受けた企業として明記されているのはTECである。
2
初期プログラムでは欧州内の複数構想を競わせる仕組みが採られていたが、今回確認できるフェーズ2発表には、Thales Alenia Spaceへの並行したフェーズ2契約は記されていない。また、TECの新契約が未決定のままという内容でもない。
2
次に注目すべき点
今回の契約により、NyxにはISS自律ドッキング実証へ向けた資金面の道筋ができた。確定分は3億1000万ユーロ、追加サービスには最大4億5000万ユーロの余地がある。
ただし、欧州の自律的な宇宙貨物輸送が実際に形になるかは、Nyxが実証ミッションを計画通り完了できるか、そしてTECがどの打ち上げ機を選定するかにかかっている。欧州製ロケット利用へのインセンティブは用意されたが、打ち上げ機の決定はまだ公表されていない。
2
13