AIを使うための「1単位」の料金が下がっているのに、なぜAIへの支出は増えているのか。ポイントは、価格の下落と需要の減少を同じものとして扱わないことだ。
Silicon Dataの「LLM Token Expenditure Index」は、LLM(大規模言語モデル)が処理するトークン100万個あたりに、市場全体が実際に支払っている金額を、利用量に応じて加重平均した指標だ。2026年8月31日、この広範な市場指標は97セントに下落し、指数作成以来の最低値となった。初夏のピークの半分未満にあたる水準だ。
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ただし、この指数はAIの総支出やトークンの総使用量を示すものではない。下落が示すのは、推論(AIモデルが入力を処理して回答を生成すること)の単価、または市場がAIの1単位に支払う意思の低下であって、需要が落ち込んでいるという意味ではない。
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なぜ100万トークンあたり1ドルを割り込んだのか
複数の要因が同時に価格を押し下げた。
- 低価格の中国製モデルが利用シェアを伸ばした。 オープンモデルや低価格モデルの性能が向上し、開発者は高価な独自モデル以外の選択肢を持てるようになった。利用が安価なモデルへ移れば、市場全体の加重平均価格も下がる。
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- API価格が顧客獲得の武器になった。 AI企業は値下げによって利用者や導入案件を増やし、市場シェアを守ろうとした。モデル間の性能差が縮まるほど、料金は選定を左右する重要な要素になる。
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- 推論のコスト構造が改善した。 モデルの提供・運用コストが下がれば、企業はより多くの出力を低価格で提供しやすくなる。ただし、すべての事業者が同じコスト構造を持つことまで、確認された情報からは言えない。
- 値下げが中国市場の外にも波及した。 競争圧力を受け、世界の主要AI企業も低価格帯のモデルやプランを相次いで投入し、推論市場全体の価格競争が強まった。
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価格はおおむね下落基調だった。6月初めには100万トークンあたり2ドルを超えていたが、8月初めには1.16~1.18ドル程度まで下がり、その後1ドルを割り込んだ。
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4 もっとも、公開スナップショットや報道によって途中の数値には差があり、7月27日の値として1.43ドルが示された例もある。
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DeepSeekとXiaomiが火をつけたAI価格戦争
大きな転機となったのは、DeepSeekが5月、旗艦モデル「V4-Pro」のAPI料金を75%引き下げ、その価格を恒久化したことだ。新料金は従来の4分の1で、利用形態によって異なる。
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Xiaomiも追随し、「MiMo-V2.5」シリーズのAPI料金を最大99%値下げすると発表した。さらに、ByteDance、Tencent、MiniMax、Alibabaなど複数の中国AI企業が同じ時期に値下げを実施したと報じられている。
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こうした競争によって、企業がAIモデルを選ぶ基準も変わった。単に「最も高性能なモデル」を選ぶのではなく、次のような要素を総合的に比較する必要がある。
- 料金あたりの性能
- 応答速度
- 長い文脈を扱う能力
- 安定性や信頼性
- 自社環境へ導入しやすいかどうか
日常的な文章処理やコード生成などでモデルの性能が十分に近づけば、料金差が大きいサービスへ利用が急速に移る可能性がある。
一方、価格競争は8月に新たな段階へ入った。DeepSeekは新しい旗艦モデルの料金を引き上げ、ピーク時とオフピーク時で異なる料金体系を導入した。オフピーク料金はピーク時の半額だという。この動きは、GPUの稼働率を管理し、インフラ費用を回収するには、最安値を無制限に維持するビジネスモデルが難しいことを示唆している。
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価格が90%下がっても、AI支出が増える仕組み
基本的な関係は次の式で表せる。
総支出 = トークン単価 × 使用トークン数
例えば、トークン単価が90%下がっても、使用量がそれを上回るペースで増えれば、総支出は増加する。安価になったことで、これまで採算が合わなかった用途までAIを使えるようになるためだ。
対象となるのは、自動化されたカスタマーサポート、ソフトウエア開発、文書処理、長文脈の分析、複数のAIが自律的に作業するエージェント型ワークフローなどだ。AIが安くなるほど、導入できる業務の数と、1つの業務で処理する量が増える可能性がある。
一部の分析では、2023年以降にトークン価格が90%超下落する一方、AIへの総支出はおおむね倍増したとされる。これは、安価な推論が需要を壊したのではなく、経済的に成立するAI用途を増やした市場と整合する。
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中国では、トークン利用の拡大が需要の一つの手がかりになっている。国家数据局(中国国家データ局)によれば、1日あたりのトークン消費量は3月に140兆を超え、前年末の100兆から40%以上増加した。
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通信大手もAI計算能力への投資を拡大している。China Telecom(中国電信)は上半期のインテリジェント・コンピューティング収入が前年同期比95%増加したと報告し、China Unicom(中国聯通)では計算インフラへの設備投資が80%超増えた。
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これらの数字は、すべてのモデル提供企業が利益を上げていることを意味しない。示しているのは、単価の低下がより大きな利用量や、クラウド、データセンター、半導体、ネットワーク、電力への需要を生み出し得るということだ。
問われるのは、投資に見合う収益か
強気の見方では、推論価格の下落はAIの本格普及の始まりだ。安価になった「知能」が新たな用途を生み、トークン使用量が増えれば、クラウド容量、データセンター、半導体、ネットワーク、電力への投資も正当化される。
慎重な見方は、投資回収のタイミングに注目する。Allianz Researchを引用した報道では、AIの設備投資と売上成長の乖離は約46%に達し、2001年の通信バブル期に見られた約32%の乖離を上回るという。
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これは、AIが通信バブルと同じ道をたどる証拠ではない。しかし、次の3つのリスクを浮き彫りにする警告ではある。
- 価格下落リスク:モデルの性能が向上しても、販売価格がさらに下がる可能性がある。
- 稼働率リスク:固定費の大きい計算インフラには、一時的な利用急増ではなく、持続的な需要が必要になる。
- 収益化リスク:大規模な設備投資を回収するには、実現単価の低下を補う速度でトークン使用量と売上を伸ばさなければならない。
指数は「需要」ではなく「支払える価格」を見る指標
Silicon Dataの新たな最低値は、AI需要を測る単独の指標というより、市場の価格決定力と支払意思を示すシグナルとして読むのが適切だ。市場が100万トークンあたりに支払う金額が下がった背景には、利用が低価格モデルへ移ったことと、提供企業が激しく値下げしていることがある。
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今後の焦点は、値下げによって新たなAI用途がどれだけ生まれるかだ。価格下落を上回るペースで使用量が増えれば、AI市場全体の売上は拡大し得る。反対に、価格戦争が需要の伸びを上回れば、高額なインフラだけが残り、投資収益率が低下する可能性もある。
現時点の情報は、安価な推論が需要を広げる可能性と、過大な設備投資が収益を圧迫するリスクの両方を示している。どちらが勝つかは、トークンの「安さ」ではなく、安さが実際の利用量と利益に変わる速さで決まる。