この急騰はレバノン情勢だけが理由ではありません。6月1日(日)の時点で、トランプ大統領は、イランとの60日間の停戦延長に関する了解覚書(MOU)に署名するか否かの決断を下していませんでした。仲介国を通じて交渉が進められていると報じられる一方で、J.D.バンス副大統領も、大統領が署名するかは「まだ未定(TBD)」と記者団に述べるなど、不透明感が漂っています 。
状況をさらに複雑にしているのは、イラン側が「停戦延長の合意は最終化されていない」と公式に否定していることです。米政府高官の楽観的な見通しと、テヘランの公式見解の間には深刻な隔たりがあり、外交的な「安全弁」が機能していません 。石油市場にとって、これはドローンが撃墜される、機雷が敷設される、ミサイルが発射されるといった一つの偶発的な衝突が、より大規模な紛争の引き金になりかねない危険な状況を意味します
。
3つ目の、そして最も具体的な要因は、世界で最も重要な石油のシーレーン(海上交通路)であるホルムズ海峡での、継続的な軍事衝突です。世界の石油供給の約20~25%が通過するこの海峡は、名目上の停戦にもかかわらず、依然として戦闘区域と化しています 。
直近1週間だけでも、米軍は「自衛攻撃」と称して複数回の軍事作戦を実施しています。
これらの事例は、ホルムズ海峡が平穏からほど遠い状態にあることを如実に示しています。停戦という言葉とは裏腹に、現場では船舶の航行に対する物理的なリスクが日常的に存在しているのです。
これらの出来事の一つだけでは、WTI原油を90ドル近辺まで押し上げることはなかったでしょう。市場を動揺させているのは、複数の危機が互いに影響を及ぼし合う「複合効果」です。
このように幾重にも重なる危機は、市場関係者が「3正面リスクプレミアム」と呼ぶ状況を生み出しています。今回の原油高は、市場がもはや政治的な見出しだけに反応しているのではなく、明確な出口戦略が見えない多正面紛争の深刻な不安定化リスクを織り込んでいることを物語っています。
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