投資家にとって、これはセクター全体への強気シグナルだった。インフィニオンとSTMは、AIサーバーから電気自動車まで、あらゆる機器の電力管理・変換を行うパワー半導体分野で覇を競う欧州二大企業である。STMの大規模な上方修正は、AIデータセンター向けパワーマネジメントチップの市場規模が極めて大きいことを定量的に裏付けるものであり、欧州最大の半導体メーカーであるインフィニオンがその主たる恩恵を受ける企業として位置づけられた 。
この日のポジティブなセンチメントをさらに強力に増幅させたのが、あるアナリストの強気な評価だった。同日、米金融大手ジェフリーズのジャナルダン・メノン氏は、インフィニオンの投資判断を「買い」で据え置きつつ、目標株価を75ユーロから96ユーロへと大幅に引き上げた 。この新目標は2つの点で注目に値した。従来目標からの大きな飛躍であり、なおかつ、当時のアナリスト・コンセンサス平均(約69ユーロ)を大きく上回っていたことだ
。
さらに重要だったのは、メノン氏の分析が強い確信に基づいていた点だ。同氏によるインフィニオンの2026/2027年度および2027/2028年度の1株当たり利益(EPS)予想は、市場コンセンサスを10%以上も上回っており、機関投資家が買いを入れるための、ファンダメンタルズに裏付けられた新たな「上値の目安」を提供する格好となった 。
6月2日の出来事は、真空地帯で起こったわけではない。その直前までの数週間に、AI電力インフラという巨大テーマに結びついた一連の強力な好材料が相次ぎ、株価はもはやブレイクアウト寸前の状態にあったのだ。
ファンダメンタル面での起爆剤となったのは、インフィニオン自身の2026年度第2四半期(1-3月期)決算だ。売上高は38億1000万ユーロに達し、さらにAIインフラ需要の急増と自動車部門からの受注改善を理由に、通期の業績見通しを上方修正した 。これにより株価は、2000年以来の大台となる70ユーロを決定的に突破し、市場に強いインパクトを残した
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このわずか数日後、インフィニオンは重要な法的勝利を手にした。米国国際貿易委員会(ITC)の本委員会が、中国の競合企業Innoscience(Innoscience (Suzhou) Technology Holding Co., Ltd.)が、窒化ガリウム(GaN)技術に関するインフィニオンの米国特許(US 9,899,481)を侵害したとする2025年12月の予備的決定を支持したのだ。ITCは、侵害しているInnoscienceのGaN製品に対し、米国市場での輸入および販売の禁止を命じた 。
この決定は、次世代のAIデータセンター向け高効率電源に不可欠な技術であるGaNパワーチップという急成長市場において、インフィニオンの競争上の地位を守るものであり、同社の業界トップクラスの特許ポートフォリオの価値を再確認させるものだった 。
この強気シナリオを下支えしていたのが、インフィニオンによるOptiMOS 8 パワーMOSFET製品ファミリーの拡充であり、AIデータセンターの電源需要に直接応える製品だ。アナリストや投資家に対し、AIインフラの急増する需要と同社の製品ポートフォリオを結びつける、具体的な製品レベルの成長ストーリーを提供した 。
これらすべての要素は、2026年を支配する単一の強力なナラティブへと集約される。世界中で進むAIデータセンターの建設が、先端パワー半導体に対し巨大かつ持続的な需要サイクルを生み出しているのだ。欧州最大かつ最も多角的なパワーチップ・メーカーとして、シリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウムまで幅広い技術ポートフォリオを擁するインフィニオンは、このトレンドにおける欧州の最も明快な代弁者となった 。年初来で40ユーロ台前半から90ユーロ近辺へと約130%も上昇したこの株価こそが、そのテーマに対する市場の評価なのである
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