現在、市場関係者の見方は真っ二つに割れている。テクニカル分析に基づき、構造的に1,600ドル(約24万円)付近まで下落すると見る弱気派と、近々予定される大型アップグレードなどを材料に、短期間で4,000ドル(約60万円)を超えて急反発すると予想する強気派だ 。
今回の急落局面で最も目立つ要因は、米国市場のイーサリアム現物ETFからの資金流出だ。これらのファンドは6月1日に4,444万ドルの純流出を記録し、これで15営業日連続の資金流出となった。そして翌6月2日には、さらに9,014万ドルが流出し、連続流出記録はETFがローンチされて以来最長の「16日」にまで伸びた 。
資金流出の中心にいるのは、世界最大の資産運用会社ブラックロックのETHAだ。6月1日に約3,497万ドル、2日には約4,427万ドルが流出した。また、フィデリティのFETHからも、1日に947万ドルが引き揚げられている 。6月1日までの1週間におけるETF全体の純流出額は2億4,100万ドルに膨れ上がり、これらのファンドの純資産総額は111億4,000万ドル(イーサリアム全体の時価総額の4.6%)まで目減りした 。
2026年5月の1ヶ月間で見ると、流出額は4億160万ドルと、過去3番目に悪い月間記録となった。これは、2025年11月(約14億2,000万ドルの流出)と同年12月(約6億1,700万ドルの流出)に次ぐ規模である 。このような持続的な機関投資家の売りは市場心理を冷え込ませ、ETHは5月だけでも12.6%下落していた 。
もちろん、機関投資家の売りは真空地帯で起こったわけではない。複数のマクロ経済的要因がリスク資産全体に下落圧力をかけ、イーサリアムもその渦に巻き込まれたのである。
原油ショック:
ホルムズ海峡周辺の地政学的混乱を背景に、原油価格が1バレル100ドルを突破。これにより、仮想通貨マイニング事業のBitMineの会長、トーマス・リー氏が「記録的な水準だ」と指摘するほどの逆相関が原油とイーサリアムの間で発生した 。エネルギーコストの上昇に伴い、マイニングやステーキングの収益性が悪化し、機関投資家はリスク資産から資金を引き揚げたのだ。リー氏はこの原油主導の売りは一時的との見方を示すものの、イーサリアムにとって「短期的なマクロ最大の逆風」であると認めている 。
ビットコインの下落と「戦略的売却」:
市場の「基軸通貨」とも言えるビットコインが7万ドルを割り込んだことも大きい。特に、大量保有で知られるマイクロストラテジー社が「ストラテジー」に社名変更後、5年ぶりにビットコインの売却を初めて開示した。これは同社の積立戦略の転換を示唆し、市場最大の機関投資家が慎重になっているとの懸念を誘発。仮想通貨市場全体のリスクオフを招き、イーサリアム相場も引きずられる形となった 。
高金利と世界的不確実性:
高止まりする政策金利、上昇する債券利回り、そして根強いインフレ懸念が、投機的資産全般への投資意欲を減退させている。仮想通貨市場のセンチメント(投資心理)は「極度の恐怖(Extreme Fear)」を示す領域に繰り返し陥り、2026年に入ってからは、レバレッジをかけたポジションの連鎖的な強制決済が数十億ドル規模で発生している 。米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派的(金融引き締めに積極的)な姿勢は、2026年前半の早期利下げへの期待を打ち砕き、投資家は国債利回りへ資金を逃避させ、仮想通貨市場から流動性を奪った 。
マクロ環境に加え、イーサリアムはエコシステム内部にも多くの逆風を抱えている。
6月2日時点で1,924ドル付近で取引されるイーサリアムは、主要な日足移動平均線をすべて下回っており、短期的なテクニカル面の状況は非常に厳しいと言わざるを得ない 。日足のボリンジャーバンド下限は1,936ドルに位置し、月足チャートでは1,750ドルへの下降余地を示唆する分析もある。ブレイクダウン(支持線割れ)が加速すれば、次の主要な需要ゾーンは1,550〜1,600ドルだとテクニカルアナリストは警告する 。
過去の季節性(アノマリー)も強気派を支持しない。6月は過去10年間でイーサリアムにとって最もパフォーマンスが悪い月であり、10回のうち7回がマイナスリターン、平均下落率は6.74%である 。
しかし、強気派の反論も2つの強力な「カタリスト(相場を動かす材料)」に支えられている。
1つは、機関投資家の「押し目買い」の動きだ。ナスダック上場企業のBit Digitalは、5月11日に平均取得単価2,334ドルで2,000万ドル分のETHを購入し、保有総量を15万8,000トークン以上に増やしたことが明らかになっている 。これは、過去の下落局面でその後の急回復に先行してみられたパターンと一致する。
もう1つ、そしてより重要なのが、6月に予定される「Glamsterdam(グラムステルダム)」アップグレードである。このアップグレードにより、取引手数料(ガス代)が78.6%削減され、処理能力(スループット)が最大10,000トランザクション/秒にまで向上すると予測されている 。アナリストのサム・ダオドゥ氏は、ビットコインが90,000ドルを回復し、ETFへの資金流入が再開するという強気シナリオの下では、このアップグレードを起爆剤にETHが4,000ドルを突破する可能性を指摘している 。
先述のトーマス・リー氏も、2026年後半の「大規模な」反発を予想しており、地政学的緊張の緩和とともに原油との逆相関による売りも一巡するとの見解を示している 。
市場は今、2つの極端な見方に引き裂かれている。足元の資金フロー、すなわち過去最長の16日連続ETF資金流出が示すように、市場の目先の確信は深く揺らいでいる。この流れが反転しない限り、1,750ドル、あるいは1,600ドルへの下落リスクは依然として現実味を帯びるだろう。しかし、歴史的なアップグレードの実装と、大規模投資家による静かな買い集めは、信頼できる「起爆剤」さえ現れれば、相場が暴力的なまでに急反発する条件が整いつつあることも示唆している。
※1ドル=150円換算