実は2026年、ショートポジションの偏りが話題になったのはこれが初めてではありません。
2026年5月4日:ビットコインが8万ドルを突破した際、わずか1時間で1億5000万ドル以上のショートが清算されました。当時のバイナンスの無期限先物では、建玉の62.8%がショートでした 。これは、上昇トレンド中に発生した典型的な「ショートスクイーズ」で、価格上昇がショート勢を罠にかけ、損失を覚悟した買い戻し(損切り)が値動きを加速させたのです。
2026年6月半ば:状況は全くの別物でした。62.8%のショート比率は、ショート1.7に対してロング1の割合です。一方、6月の7対1の比率は、ショート約87.5%に対してロング約12.5% という、はるかに極端な不均衡を示しています。5月の現象が相対的な強さの中で起きたのに対し、6月のそれは数週間にわたる降伏(カピチュレーション)の後に到来しました。これは、根底にある実需の弱さと、強気な投資家心理の完全な蒸発を映し出していたのです 。
重要なのは、この深い下落後の極端なポジション偏重が、強力なショートスクイーズ(急騰の燃料)を引き起こす可能性を秘めている一方で、純粋な買い意欲そのものが枯渇してしまった危険なサインでもあるという点です。
2026年6月14日、トランプ米大統領がイランとの和平合意を発表し、「石油タンカーが再びホルムズ海峡を航行している」と宣言しました 。リスク資産市場の反応は即時的かつ劇的で、数ヶ月かけて積み上がっていた「地政学的リスク」という名のプレミアムが、数分で解消され始めました。
この和平合意によるショートスクイーズは劇的でしたが、これは回復劇の一部を説明するに過ぎません。さらに深い問いは、6万500ドルという安値からの反発が、空売りの買い戻しによる一時的な「デッド・キャット・バウンス(死んだ猫も落ちれば跳ねる)」なのか、それともより構造的に意味のある変化なのか、という点でした。
オンチェーンアナリストの アクセル・アドラーJr. 氏は、この疑問に明確な答えを出す詳細な分析を発表しました。彼の結論は、このリバウンドは本物の買い圧力によって引き起こされており、単なるショートスクイーズではない、というものでした 。
彼の主張を裏付ける3つの主要な指標は以下の通りです。
1. 攻撃的な買い手の復活を示す「テイカー売買比率」
6月15日までの10日間のうち、8日間でテイカー売買比率が1.0を上回りました。この指標は、指値注文ではなく成行注文を出して積極的に買う強さを示しており、アドラー氏にとって、これこそが「本物の需要回帰」を示す最も強力なシグナルでした 。
2.「ショートスクイーズ否定」の証拠となるプラスの資金調達率
6月6日から15日までの10日間連続で、資金調達率は+0.001%から+0.020%のプラス圏で推移しました 。これは決定的に重要な点です。典型的なショートスクイーズでは、ショート勢の必死さを反映して資金調達率がマイナスに転じます(空売りしている側が買い手に手数料を支払う)。プラスのままだということは、ロング(買い)のポジションを持つ側が手数料を支払っている状態であり、パニック的なショートカバーが相場を主導しているわけではない ことを強く示唆しています。
3.「健全な調整」を示唆する建玉(オープン・インタレスト)の減少
価格が上昇する一方で、ビットコイン先物の建玉は16.5億ドルから15.5億ドルへと約6%減少しました。アドラー氏はこれを 「脱レバレッジ・リバウンド(過剰債務解消による反発)」 と呼び、新たなトレンドの開始ではないと断じました。価格が上がるのに建玉が減るのは、利益確定のロング決済と損切りのショート決済が同時に進行し、市場から過剰なレバレッジが取り除かれている証拠です。これは、新たなバブル形成ではなく、むしろ悪い膿を出し切るプロセスなのです 。
純注文フローのデータもこの見解を裏付けています。6月5日には2億3600万ドルの売り越しでしたが、6月7日にはわずか8時間で6億2000万ドルの買い越しとなり、実需が急速に戻ってきたことを示しています 。アドラー氏は一貫して、この動きを「広範な下降トレンドの中での必要な調整」と位置づけ、真の強気相場への転換には、価格と建玉が同期して上昇する必要があると強調しています
。
なぜここまでショートが積み上がったのか。その前提となる弱気相場のスケールを理解する必要があります。
ビットコインは2025年10月に 12万6198ドル の史上最高値を記録しましたが、そこからわずか8ヶ月で47%以上も下落し、6月の安値 6万500ドル まで叩き売られました 。この下落は深いだけでなく、暴力的ですらありました。
また、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告(COTレポート)を見ると、5月27日時点でヘッジファンドなどの大口投機家の買い越しはわずか2,458枚と、強気とは言い難い慎重なポジションでした 。6月の大惨事以前から、機関投資家の確信は乏しかったのです。
6月半ば、ビットコインは約6万5600ドルから6万6300ドルのレンジに戻ってきました 。これは急落前の5月下旬とほぼ同水準で、パニック売りの傷を癒やしたに過ぎません。テクニカル分析上も、真のトレンド転換を占う上で、6万8000ドル近辺の抵抗線 を突破できるかが焦点となりました
。
さらに、現物のビットコインETFからは、6月15日までの1週間だけで3億1600万ドルが流出し、5週連続の資金流出超となりました 。この事実は、和平合意がリスクオンの熱狂を引き起こす中でも、根強い機関投資家の慎重姿勢を物語っています。
6月半ばの市場は、記録的なショート偏重が地政学的触媒で強制的に巻き戻されつつも、その回復の実態は、投機家による追撃ではなく、押し目を拾う慎重な現物買いによって支えられているという、実に興味深い分岐点に立っていました。アクセル・アドラーJr.氏のデータは、市場が新たな熱狂ではなく、過剰債務の解消という形で「治療」されている、という冷静な現状分析を示していたのです。
Comments
0 comments