2026年9月14日のASML株の下落は、同社が業績見通しを下方修正したためではなく、AI投資の長期シナリオが見直されたことが主因とみられます。
Anthropicのダリオ・アモデイCEOが、安全性を確保するため最先端AI(フロンティアAI)の能力向上ペースを落とすべきだと訴え、OpenAIのサム・アルトマンCEOとイーロン・マスク氏もこれに同調したと報じられました。投資家は、AI開発の自主的または規制上の減速が、将来的なAIチップ、サーバー、データセンター、半導体工場への投資を弱める可能性を意識しました。アムステルダム上場のASML株は約5.2%下落し、米国上場株も約7.3%下落と報じられています。
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なぜAI安全性の議論がASMLに響くのか
ASMLは、先端半導体の製造に不可欠な露光装置を手がけます。AIモデルの性能向上がすぐに鈍っても、翌日から装置需要が消えるわけではありません。ただし市場は、AI向けデータセンターの建設ペース、最先端チップの生産量、そして製造装置の将来の購入規模が小さくなる可能性を織り込み始めます。
つまり今回の動きは、決算未達や受注キャンセルへの反応というより、AI由来の高成長を前提に付いていたリスクプレミアムと株価評価の調整と読むのが自然です。特に、数年先まで続く大型設備投資を前提に評価されてきた企業ほど、期待値のわずかな低下でも株価への影響が大きくなります。
半導体株に集中した世界的な売り
売りはアジアから米国まで広がり、ロイターはAI関連株の下落で半導体株が特に大きく売られたと報じました。
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米国では、PHLX半導体指数が5.9%下落。NVIDIAは3.4%安、Micron Technologyは5%超安、BroadcomとAMDはいずれも4%超安となりました。
27 CNBCによると、Intel、Marvell Technology、Applied Materialsも4%超下落し、SK Hynixは米国取引で7%下げました。
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一方、主要株価指数の下落は半導体ほど大きくありませんでした。
- S&P 500種株価指数:0.48%安
- ナスダック総合指数:0.56%安
- ダウ工業株30種平均:0.29%安
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これは景気後退懸念による市場全体の急落というより、AIインフラ投資の拡大に最も収益が連動する銘柄へ、見直しが集中したことを示します。米国市場ではチップ株が売られる一方、ソフトウェア株は上昇したと報じられています。
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モルガン・スタンレーが示した評価面の懸念
ASMLの技術的な競争力そのものが争点だったわけではありません。焦点は、投資家が織り込んできた非常に高い成長軌道が維持できるかです。
モルガン・スタンレーはASMLの投資判断を「オーバーウエート」に維持しつつ、目標株価を1,930ユーロから1,700ユーロへ引き下げました。近い将来の中国事業へのエクスポージャーと利益率リスクが理由です。
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強気判断の維持と目標株価の引き下げは矛盾しません。企業の中長期的な優位性を評価しながらも、株価には失望を吸収する余地が以前より少ない、と見ることはあり得ます。AI関連の設備投資、装置出荷、利益率に関する前提が少し下がるだけで、将来利益に対する評価倍率は大きく圧縮され得ます。
それでもJPMorganとBernsteinが強気を保つ理由
株価が売られた一方で、ASMLの需要見通しが悪化したことを示す会社側の発表はありませんでした。
JPMorganはASMLのCFOとの面談後、経営陣がAI需要について「非常に強い」と示したと伝えました。ASMLは2028年に110台超のEUV装置を生産する方法を検討しており、2027年分はほぼ売り切れと報じられています。
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EUV(極端紫外線)露光装置は、最先端チップの製造で中核を担う設備です。顧客がかなり前倒しで生産枠を確保しているなら、短期的な制約は顧客の購入意欲ではなく、ASMLが装置をどこまで増産できるかにあります。
Bernsteinも、先端ロジック半導体とDRAMの生産能力がAI主導で拡大するとの見方から強気を維持しました。同社はEUV出荷台数の予想を、2027年は86台から91台へ、2028年は87台から113台へ引き上げ、「アウトパフォーム」評価を据え置きました。
51 これはASMLの確約ではなくアナリスト予想ですが、一部投資家が今回の売りを近い将来の受注状況と乖離した動きと捉える背景です。
ASMLはまた、2027年・2028年の生産能力計画に、マスク氏が米テキサス州で構想するTerafabプロジェクトに関連した需要見込みを織り込んでいると説明しました。ただし、これは計画上の需要を考慮しているという意味であり、将来売上がすでに確定していることを示すものではありません。
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ASMLの足元の業績と生産能力計画
ASMLの2026年第2四半期決算は、市場の不安に対する最も明確な反証材料です。同社は売上高93億ユーロ、純利益29億ユーロを報告しました。
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通期の売上高見通しは430億〜450億ユーロへ引き上げられ、売上総利益率は**54〜56%**を見込んでいます。第3四半期の売上高見通しは110億〜120億ユーロ、売上総利益率の見通しは55〜57%です。
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生産能力の拡大計画も重要です。ASMLは、2026年に約65台としているLow-NA EUVの生産能力を2027年に30%増やし、2028年にはさらに30%増やす可能性を検討するとしました。DUV(深紫外線)液浸露光装置についても、同様の30%増産方針を示しています。
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もちろん、AI投資の減速、輸出規制、顧客の設備投資時期、利益率にはリスクが残ります。それでも、9月14日の売りの時点でASMLは業績見通しも能力拡張計画も引き下げていませんでした。
次の決算で確認すべき点
次の四半期決算は、今回の下落が主に投資家心理によるものだったのかを判断する試金石になります。市場が注視するのは次の4点です。
- 第3四半期の売上高110億〜120億ユーロ、売上総利益率55〜57%という会社見通しを達成できるか。
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- 2027年・2028年のEUV需要と生産能力に関する見通しが維持、または改善されるか。
- AI需要が集中する先端ロジックとメモリー向けの顧客投資について、どのような説明があるか。
- 受注見通しの弱まり、生産能力計画の縮小、納入延期など、需要鈍化を示す兆候が出るか。
見通しに沿った業績に加え、EUV需要への自信が保たれれば、今回の下落は高い期待を織り込んだ株価の再評価が中心だった、という解釈を支えます。反対に、見通しの悪化や顧客投資に関する明確な弱気発言があれば、AIインフラ投資の減速懸念がASMLの実需にも及び始めた可能性が強まります。
核心は、9月の売りが将来のAI設備投資ストーリーの変化を先取りしたものだった点です。ASMLの受注、生産能力、顧客需要に関する今後のシグナルが、それが実際の減速へ発展するのかを決めることになります。