これは1カ月限りの出来事ではありません。2026年5月にも、ソナトラックはすでに価格を2~18%引き下げており、サウジアラムコが価格を据え置いていたことから、6月のこの価格差は数カ月前から続いてきた傾向が加速したものと言えます 。
トレーダーらは、ソナトラックの大幅な値下げの背景を「地中海市場における供給増」と直接結びつけています 。アルジェリアは、米国メキシコ湾岸の輸出ターミナルから大西洋圏に流れ込むLPGの波や、他の北アフリカや黒海の供給元と競合しています。欧州の需要は、こうした追加供給量を吸収できるほど速く伸びておらず、結果として地域全体が供給過剰となり、価格が押し下げられています 。
通常、南欧向けに近距離輸送を行うソナトラックにとって、競争力を維持する唯一の方法は、積極的な値下げに踏み切ることでした。18~31%という引き下げ幅は、在庫を滞留させるより、積み荷を確実にさばくための意図的な試みです。
対照的に、サウジアラムコの小幅な値上げは、アジア太平洋のLPG市場が異なるファンダメンタルズ(基礎的需給条件)で動いていることを示しています。中国、インド、韓国、日本といった長期契約の購入者は、石油化学プラントの原料や家庭用燃料を中東産LPGに構造的に依存しており、その指標となるのがアラムコの契約価格です 。
プロパンの10ドルの値上げは、アジアの需要が前月比で底堅いか、やや引き締まったこと、そしてサウジアラビアの輸出余力が値引きを必要としない程度に限られていたことを示唆しています。ブタン価格が横ばいだったことも、市場が供給過剰というより需給均衡の状態にあることを示しています。
2026年6月の動きは、地域ごとのLPG価格指標間の「非連動化(デ・コリレーション)」を示す、最も明確な事例の一つです。米国の記録的なシェールガス生産、拡大する天然ガス液(NGL)インフラ、そして中東の新規生産能力によってもたらされる世界的な供給の波が、届け先によって全く異なる形で着地しているのです。
つまり、世界のLPG市場は、地域間価格差のある「単一の市場」ではなく、それぞれ独自の需給バランスを持つ「複数の異なる市場」の集まりなのです。2026年6月の動向は、そのことをかつてないほど明確にしています。
ソナトラックの大幅な値下げ幅は、地中海市場が底値に近づいているのかという疑問を投げかけています。米国産LPGの輸出マージンが悪化したり、欧州の貯蔵設備が満杯になったりすれば、さらなる値下げが必要になる可能性があります。逆に、2026年後半に季節的な要因でアジアの購買意欲が減退すれば、サウジアラムコの価格面での優位性は急速に崩れる可能性もあります。
バイヤーとトレーダーにとって、2026年6月のメッセージは明白です。世界全体のLPG供給に関するニュースよりも、地域ごとの需給動向の方がはるかに重要であり、「サウジアラムコCPとソナトラックOSPのスプレッド(価格差)」は、この市場がいかに不均一になっているかを測る重要なバロメーターとなったのです。