この難局に臨むべく、ベネズエラ政府は早速、世界最高峰の「頭脳」を招聘した。
米国のブティック型投資銀行であるCenterviewが、財務戦略の立案を担う主幹事に選ばれた 。この案件を率いるのは、同社パリオフィスのトップであり、Lazard時代にM&A部門のグローバルヘッドを務めたフランス人バンカー、**マチュー・ピガス(Matthieu Pigasse)**である
。
ピガスはソブリン債務再編の世界では生ける伝説だ。彼が陣頭指揮を執った2012年のギリシャ債務再編は、民間保有分だけで2060億ユーロ(当時のレートで約20兆円超)に達し、史上最大のソブリン債務オペレーションとして名高い。今回のベネズエラ案件も、そのギリシャに匹敵する規模と複雑さを持つと目されている 。
しかし、その選定プロセスには早くも暗雲が漂う。ロイター通信の報道によれば、この誰もが欲しがる「超優良案件」が、正式な公開入札なしに決まったというのだ。事情に詳しい8人の関係者の証言として伝えられたこの事実は、一部の投資家から「公正性と透明性」への疑念を招いている 。
法務面を支える大役に抜擢されたのが、国際法律事務所のHogan Lovellsだ。この契約は、2026年6月2日に米国の外国代理人登録法(FARA)に基づく規制当局への提出書類によって明らかになった 。
この法務チームには、元米国上院議員のノーム・コールマン(Norm Coleman)という政界の重鎮も名を連ねていると、事情に詳しい複数の情報筋は伝えている 。複数の法域(管轄区域)、多種多様な債権者、そして政治と国際制裁が絡み合う超法規的な案件だけに、ホワイトハウスとのパイプも持つ彼らの役割は計り知れない。
民間アナリストの推計では、この巨額の債務の「本体」とも言える、デフォルト状態にあるソブリン債とPDVSA債だけでも約600億ドルにのぼる。そこに、未払い利息の延々たる積み重ねや、ローン、訴訟関連の偶発債務が加わり、冒頭の1500億~1700億ドルという天文学的数字に膨れ上がっているのだ 。
この分析が実質的に債権者の「回収額」を決定づける。すなわち、債務をどれだけ減免するか、その「ヘアカット」(元本削減)の割合がここで固まる、と言っても過言ではない。
では、実際にどれほどのカットが必要なのか。
ハーバード・ケネディ・スクールの経済分析は、極めて厳しい現実を突きつける。ベネズエラの対外債務を持続可能な水準に戻すには、額面ベースで70%超、時価ベースで85%超という、前代未聞の大規模な元本削減が必要になると試算しているのだ 。
しかし、問題はここにある。オックスフォード大学の専門家も指摘するように、債権者と債務者の双方が納得する信頼に足る中期的な経済予測を描くことは「極めて困難」であり、合意可能な「経済のベースライン」そのものが最大の障害になりうる 。
壮大な「債務整理」という名の旅路は、まだ、その最初の一歩を記したに過ぎない。
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