この申請は、最大のライバルであるAnthropicが秘密S-1を提出した、わずか1週間後に行われた。Anthropicは、対話型AI「Claude」を開発するOpenAIの強力な競合であり、650億ドルのシリーズH資金調達ラウンドを経て、約9650億ドルという企業評価額で、2026年6月1日にSECへ申請書類を提出していた 。
Anthropicの動きはウォール街の激しい精査を引き起こし、直ちに「OpenAIも追随するのか」という憶測を呼んだ 。結果としてOpenAIは追随したが、CEOのサム・アルトマンは、これが勝者総取りのレースだという見方を公然と否定した。
Anthropicの申請発表から数時間後、アルトマンCEOはCNBCの番組「Power Lunch」に出演し、IPOのタイミングを競う競争という構図を退けた。「最高の技術を届け、最高のビジネスを構築する競争は存在すると思います」とアルトマンは語った。「しかし、IPOは資金調達のイベントです。我々はそのタイミングに焦点を当てているわけではありません。意味があると思える時に実行するだけです」 。
さらにアルトマンは、AI市場は最終的に単一の覇者ではなく、「複数のプロバイダーによるシステム」を支えることになるだろうと主張した 。彼のコメントは、OpenAIが現在を「株式公開への短距離走」ではなく「技術革新のマラソン」と捉えていることを示している。
この慎重な姿勢は、アルトマンが長年抱いている株式公開市場への個人的なアンビバレンスとも一致する。2025年末に出演した「Big Technology Podcast」では、上場企業のCEOになることへの興奮度を「0%」とし、たとえ将来的に上場が不可避だとしても、四半期決算や株主からのプレッシャーといった避けられない煩わしさを認め、「上場企業のCEOになることに興奮しているか? 0%だ」と率直に語った 。
2026年初頭には、アルトマンCEOが目指す2026年後半の上場計画について、サラ・フライアーCFOが社内でリスクを指摘していたとの報道もあった。特に、巨額のインフラ投資や、収益成長の減速がそうした支出を支えられるかという点に懸念が示されたという 。今回の秘密申請は、近い将来の上場に固執することなく、あらゆる選択肢を残すものだ。一部報道では2026年秋のデビューの可能性が示唆され、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが共同主幹事を務めるとされるが、最終的な決定はまだ下されていない
。
OpenAIとAnthropicは、2026年に予想される歴史的なAI関連IPOラッシュの三本柱のうちの二つである。残る一つは、すでに4月に秘密申請を行ったイーロン・マスク率いる宇宙開発企業SpaceXだ 。これら3社の申請は、株式市場におけるテクノロジー企業の勢力図を塗り替える可能性を秘めているが、いずれもSECの審査プロセス中は機密財務データを非公開にできる「秘密申請」を用い、慎重に手続きを進めている。
OpenAIにとって、秘密S-1はウォール街への扉を開くだけでなく、将来の真実の瞬間への布石でもある。いずれ公開される登録届出書では、同社の実際の収益、利益率、コスト構造が初めて明らかになり、莫大な未公開市場での評価額の正当性が直接問われることになる 。