この取り組みは、長年続くMicrosoftとEYのアライアンスを拡張したものです。プロジェクトでは、EYの業界専門家・コンサルタントとMicrosoftのエンジニアが統合チームとして企業と直接連携し、AIソリューションを設計・開発・導入します。
従来のように小規模な実証実験(PoC)を繰り返すのではなく、企業全体の業務プロセスにAIを組み込むことが主な狙いです。
初期段階では、次のような企業の基幹機能が重点分野になります。
対象業界としては、金融サービス、製造・エネルギー、消費財・小売、政府機関、医療などが想定されています。
AI導入でよく言われる問題が、いわゆる**「パイロット・パーガトリー(Pilot Purgatory)」**です。これは、AIプロジェクトが試験運用の段階から先へ進まず、組織全体に広がらない状態を指します。
MicrosoftとEYは、この問題の原因として次のようなギャップを挙げています。
今回の構想では、これらを補うためにコンサルティング、業界知識、エンジニアリングを一体化したチーム体制を構築します。
このプロジェクトの特徴の一つが、**MicrosoftのForward Deployed Engineers(FDE)**の参加です。
FDEは顧客企業のプロジェクトに深く入り込み、クラウドやAI技術を実際の業務システムとして動かす役割を担います。つまり、単なるアドバイスではなく、現場でAIシステムを構築・統合するエンジニアです。
EYの業務専門家とMicrosoftのエンジニアが同じチームとして動くことで、AIのアイデアを実際に稼働するビジネスシステムへと変えるスピードを高める狙いがあります。
この取り組みのもう一つの特徴が、EY自身が最初の利用者(Client Zero)になることです。
EYはMicrosoftのAIツールを社内で大規模に導入し、実際の業務で検証しています。代表的な例がMicrosoft 365 Copilotです。
この内部導入によって、EY.aiプラットフォームとCopilotの組み合わせで約15%の生産性向上が報告されています。
節約された時間は、顧客対応、学習、業務改善に再投資されているといいます。
今回のプロジェクトは、突然始まったものではありません。MicrosoftとEYは2015年からクラウドとデジタル分野で共同投資を続けてきました。
その中で誕生したのが、**EYの統合AIプラットフォーム「EY.ai」**です。これはMicrosoftのAI技術を基盤に、EYの業界知識やコンサルティングを組み合わせた仕組みです。
EYはこのプラットフォームを中心に、AIを日常業務に組み込む**「Everyday AI」戦略**を推進しています。
今回の10億ドル規模の取り組みは、企業AIのフェーズが変わりつつあることを示しています。
これまで多くの企業はAIの可能性を試す段階にありました。しかし現在は、実際の業務プロセスで成果を出す段階に移りつつあります。
MicrosoftとEYは、コンサルティング、エンジニアリング、そして自社での大規模な実証を組み合わせることで、企業がAIを実験から企業全体のシステムへ拡張するモデルを作ろうとしています。もし成功すれば、今後の企業AI導入の標準的な進め方になる可能性があります。