これは単なる抽象的な国境侵犯や田園地帯への金属片の落下ではありません。NATO同盟国の一般市民を標的とした、爆発物を伴う紛れもない攻撃でした。その後の対応は、科学捜査と外交の両面において迅速かつ苛烈を極め、国連安全保障理事会の緊急会合開催とロシア高官外交官の追放という結末を迎えました。
ルーマニア国防省と情報機関(SRI)が現場から回収した残骸を分析した結果、このドローンがロシア製「ゲラン2」(イランの「シャヘド136」をロシアが国産化した自爆攻撃機)であることが公式に確認されました 。
ニクショール・ダン大統領は公開した破片の画像を示し、"Герань-2"(ゲラン2)と読み取れるキリル文字や電子部品の分析結果を公表。「包括的な調査の結果、破片がロシア製ゲラン2によるものであると断定された」と宣言しました 。この疑いようのない物的証拠に基づき、ルーマニア政府はロシアの責任を厳しく追及する姿勢を明確にしました。
被害と証拠を受けたルーマニアの反応は電光石火でした。
1. 国連安全保障理事会の緊急招集
ルーマニアは国連憲章第34条および第35条を発動し、国際平和と安全に対する脅威として、国連安保理の緊急会合を要請 。これを受け、同年6月1日午後3時(ニューヨーク時間)、安保理は緊急会合を開催しました 。オアナ・トイウ外相は自らニューヨークに乗り込み、調査で得られたロシア製ドローン「ゲラン2」の物的証拠を提示しました 。
2. ロシア領事館閉鎖と外交官追放
ダン大統領は緊急開催した国防最高評議会(CSAT)後の記者会見で、さらなる強硬策を発表。黒海沿岸の都市コンシュタンツァにあるロシア総領事館の閉鎖と、アンドレイ・コシリン総領事の「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)指定、および72時間以内の国外退去を命じました 。これは、ロシアによる「4年以上に及ぶ対ウクライナ侵略戦争」の責任がルーマニア国民の生命を危険に晒したことに対する明白な外交的制裁でした 。
この事件はNATOとEUの強硬姿勢を引き出すに十分なものでした。
また、元NATO副事務総長のミルチャ・ジオアナ氏は、今回の攻撃がNATO東側防衛線における「低高度ドローンへの防空能力と調達メカニズムの決定的な欠如」という構造的脆弱性を暴露したと公的に指摘しました 。これは、ロシア・ウクライナ戦争の「飛び火」が現実のものとなった瞬間であり、集団的自衛権の実効性を問う試金石となったのです。