重要なのは、いずれも現段階では疑惑・容疑であり、裁判で有罪が確定した事実ではないという点だ。
「ミダス作戦」は、ウクライナ国家汚職対策局(NABU)と専門汚職対策検察庁(SAPO)による合同捜査のコードネームだ。両機関は2025年11月10日、エネルギー部門で少なくとも1億ドルの横領・資金洗浄があったとする大規模スキームを公表し、その中心にエネルゴアトムがあると説明した 。
エネルゴアトムはウクライナの原子力発電を担う国営企業で、同国の4つの原発、15基の原子炉を運営している。なお、ザポリージャ原発はロシアに占領されている 。そのため、この疑惑は単なる公共調達の不正にとどまらず、戦時下の電力インフラと国家統治の信頼に直結する問題として受け止められている。
捜査は長期にわたった。Euronewsは、捜査に15か月を要し、約1000時間の音声記録が含まれていたと報じた 。初期段階では約70件の捜索・家宅捜索が行われたとも報じられている 。
捜査当局や報道が描く構図は、契約やアクセスを左右する「影の管理者」が外部からエネルゴアトムの意思決定に影響を与え、業者から支払いを引き出していたというものだ 。Euromaidan Pressは、NABUが公開した録音には、原子力事業者の防護関連契約をめぐる10〜15%のリベートに関する会話が含まれていたと報じている 。
イェルマクをめぐる報道の焦点は、ゼレンスキー大統領に近かったという政治的距離そのものではなく、資金洗浄への関与疑惑だ。
アイルランドのRTEは2026年5月、ウクライナ当局がイェルマクを容疑者として名指しし、キーウ郊外の高級住宅複合施設を通じて約1050万ドルを洗浄した犯罪グループに参加した疑いがあると報じた 。またキーウ・インディペンデントは、SAPOが「前大統領府長官」を高級住宅建設に絡む資金洗浄で訴追したと発表し、捜査関係者がその人物をイェルマクと特定したと報じている 。
ただし、公的発表の読み方には注意が必要だ。Daily Sabahは、ウクライナの反汚職機関は発表の中で当該高官の名前を出しておらず、現地メディアが広くイェルマクと報じたと伝えている 。したがって最も慎重な表現は、イェルマクがこの高級不動産をめぐる資金洗浄疑惑の容疑者または訴追対象として「報じられている」というものになる。
つながりの鍵は、資金洗浄だ。ミダス作戦の中核は、エネルゴアトムに絡むリベート、横領、資金洗浄疑惑である 。一方、イェルマク関連として報じられた枝分かれの案件は、キーウ近郊の高級住宅建設を通じた資金洗浄疑惑だ 。
Daily Sabahは、NABUが「組織化されたグループ」による4億6000万フリヴニャの資金洗浄を説明したと報じ、RTEはその規模を約1050万ドルと伝えている 。一部報道は、エネルギー関連入札から得た不正資金が高級プロジェクトに流れた疑いとして、この不動産ルートをより広いミダス作戦の一部に位置づけている 。
ただし、資金の流れ全体が公開資料だけで立証されたわけではない。英語で確認できる公開報道に基づけば、エネルゴアトムをめぐるNABU/SAPOの捜査は実在する進行中の案件であり、イェルマクに関する不動産ルートは、今後の司法判断を待つ告発・容疑の段階にある 。
関係者の法的地位は一様ではない。NABUはミダス作戦の初期段階で、5人を拘束し、7人に容疑通知を出したと発表した。その中には、犯罪組織のリーダーとされる実業家、エネルギー相の元顧問、エネルゴアトムで物理的防護・安全保障を担当していた幹部が含まれていた 。
最大の直撃は、イェルマクの辞任だった。イェルマクは長くゼレンスキー氏の右腕とされ、戦時下の政権運営で最も影響力のある人物の一人と見られていた 。2025年11月28日に自宅と執務室が捜索され、同日中に辞任し、ゼレンスキー大統領はその辞任を受理した 。
タイミングも痛手だった。キーウ・インディペンデントは、イェルマクが米国との重要な和平協議でウクライナ側を率いていた時期に捜索が行われたと報じている。同紙によれば、その協議は、ロシア側の最大限要求に沿う部分が多いとされる米国案を受けたものだった 。
影響は内閣とエネルゴアトムにも及んだ。ハルシチェンコはミダス作戦の公表後まもなく法相職を停止され、後に訴追されたと報じられた 。UNITED24 Mediaは、この作戦がすでに閣僚の職務停止やエネルゴアトム監査役会の解散を引き起こしたと伝えている 。
ゼレンスキー政権にとって、この問題は二面性を持つ。大統領に近い人物へ疑惑が及んだことは大きな政治的損傷であり、Atlantic Councilはこれをゼレンスキー大統領任期中で最大の汚職スキャンダルと評した 。一方で、NABUとSAPOが戦時下でも高官への捜索、容疑通知、訴追に動いたことは、ウクライナの反汚職制度が圧力下でも機能していることを示す材料にもなっている 。
ミダス作戦そのものが存在するかどうかは争点ではない。複数の報道が、エネルゴアトムをめぐるNABU/SAPOの進行中の捜査として伝えている 。本当の焦点は、各人物について裁判所が最終的に何を認定するか、そして資金の流れがどこまで立証されるかだ。
特にイェルマクについては、慎重な読み方が必要になる。引用されている報道は、彼が高級不動産を通じた資金洗浄案件の容疑者または訴追対象として報じられていることを示している。一方で、一部の当局発表は名前を明示しておらず、公開されている英語報道だけでは、裁判で検証済みの証拠関係までは確認できない 。
ミダス作戦は、エネルゴアトムを舞台にした少なくとも1億ドル規模のリベート・資金洗浄疑惑を追う捜査だ 。イェルマク関連の枝分かれは、4億6000万フリヴニャ、RTEの表現では約1050万ドルがキーウ近郊の高級住宅建設を通じて洗浄された疑いとして報じられている 。
この疑惑はすでに、ゼレンスキー政権の中枢に辞任、停職、訴追報道という波紋を広げた。ただし、イェルマクや他の関係者に対する疑惑は、裁判所が有罪を認定するまではあくまで疑惑・容疑である 。