また、パンディシア氏は、データの収集・利用は遅くとも2024年には始まっていたと主張しています。事前に知らされていれば、もっと早く利用停止を選んでいたとも述べています。特に大きな問題となるのは、コンテンツがAI開発に組み込まれた後では、元の動画を削除したり利用停止にしたりしても、利用を完全に元に戻せない可能性がある点です。
今回の問題をめぐっては、Twitchがデフォルト設定を正式に公表する前から、Amazonによる利用を示す説明がありました。
2024年4月、当時Twitchの最高収益化責任者だったマイク・ミントン氏は、AmazonがTwitchのコンテンツを使ってAIモデルのプロトタイプを作っていると説明しました。ただし、その時点では本番規模で行っているわけではないとも述べています。
その後、2026年8月12日、TwitchはAmazonによるTwitch上の素材の生成AI学習利用に関する設定を公表しました。同時に、利用規約とプライバシー通知も、自動化ツールやAIに関する文言を更新しました。
Twitchの説明では、Amazonはチャンネルの配信、過去の配信、クリップ、チャット、画像、テキストを、テキスト・音声・画像・動画を生成または合成する将来のAmazonモデルの学習に利用できるとされています。具体例として、音声認識や字幕機能の改善が挙げられました。
Twitchは、クリエイターがチャンネルのコンテンツを「Amazon全体」で生成AIモデルの学習に使わせないようにできる設定を追加した、と説明しました。しかし実際には、設定は初期状態でオンでした。利用を望まない場合は、Streamer Dashboardから Settings → Security and Privacy → Training for Generative AI と進み、手動でオフにする必要があります。
ミントン氏は、オプトアウトの選択肢を設けることがユーザーを尊重する方法だと説明しました。一方、なぜ最初からオプトイン方式にしなかったのかと問われると、次のように答えています。
この発言が問題をさらに大きくしたのは、ユーザーが何もしないことを同意の一部として扱う仕組みを、極めて率直に示したからです。批判する側から見れば、価値のある学習データを必要とする企業ではなく、コンテンツを提供するクリエイター側に手続きの負担を移しているとも受け取れます。
この方法が法的に有効な同意に当たるかどうかは、今後の訴訟や規制上の検討で争点になり得ます。ただし、訴状の提出だけで結論が出たわけではありません。
Twitchは、コンテンツを他社に転売することはないと説明しました。一方でミントン氏は、Amazonが特定のユーザーのデータをすでに学習に使ったのか、どの素材を使ったのかについては把握していないと述べています。
設定の範囲にも別の問題があります。オプトアウトは個人ではなくチャンネルに適用されるため、自分のチャンネルで利用を停止しても、別のチャンネルでチャットした投稿やその他の情報が、そのチャンネルの所有者が利用停止していなければ学習に使われる可能性があります。
ライブ配信は、必ずしも一人の作品だけで構成されているわけではありません。配信やチャットには、視聴者の名前、声、顔、会話、画像、さらには私的な室内の様子が含まれることがあります。チャンネル所有者だけでは、登場したり投稿したりしたすべての人を代表して利用可否を決められない場合があります。
EUの一般データ保護規則(GDPR)では、個人データをAIシステムで処理する際、適法な根拠を示し、十分な透明性を確保し、本人の権利を守る必要があります。APの一般的な指針も、AIを利用する前にプライバシー上のリスクを把握し、GDPRに沿った処理と保護策を講じるよう求めています。
Twitchのケースが難しいのは、ライブ配信が創作物と個人情報を同時に含み得るためです。顔、声、名前、チャット、画像、私的空間の映像などが、配信や会話の一部として取り込まれる可能性があります。また、AIシステムに組み込まれたデータは実際には取り除きにくく、詐欺業者などによる悪用につながる可能性も報道で指摘されています。
もっとも、これらは規制上・法的な懸念であり、TwitchやAmazonがGDPRに違反したとの確定判断ではありません。現時点の資料からは、特定のユーザーのデータがどのように処理されたのか、どの法的根拠が使われたのか、裁判所や規制当局がこの仕組みについて判断を下したのかは明らかになっていません。
裁判では、広範なプラットフォーム規約や後からのポリシー更新、初期状態でオンの設定によって、親会社が配信者の素材をAI学習という別の商業目的に使うことまで認められるのかが問われる可能性があります。これは、配信サービスの運営やモデレーションのためにコンテンツを使う場合とは性質が異なります。
利用停止にすれば将来の収集の一部を止められる可能性はあります。しかし、すでに集められた素材が使われたのか、モデル開発に組み込まれた情報を削除できるのかまでは解決しません。Amazonがどのデータをすでに使ったのかミントン氏自身が把握していないという説明は、この問題をより深刻にします。
AI学習をめぐる議論は、著作権やクリエイターへの対価の問題として語られがちです。しかしTwitchでは、配信映像やチャットに、第三者の個人識別情報、声、肖像、私的な環境、その他チャンネル所有者が独占的に管理できない情報まで含まれ得ます。
最終的な判断は、設定の存在だけで決まるものではありません。契約内容、開示の方法、実際のデータ利用、適用される法律を踏まえて、訴訟の進行の中で検討されることになります。
現段階で、パンディシア氏の申し立てはTwitchやAmazonに対する判決ではありません。裁判所は今後、請求内容や被告側の反論を検討し、何百万人ものクリエイターを代表する集団として扱えるかどうかも判断する必要があります。報道時点では、TwitchとAmazonの担当者はコメント要請に回答していませんでした。
この訴訟の重要性は、最終的な勝敗だけにあるわけではありません。クリエイターのコミュニティをAIのデータ供給源として利用するプラットフォーム企業に対し、明確な問いを突き付けています。
チャンネル単位で適用され、第三者の投稿や個人情報にも及び得る「初期状態でオン」のオプトアウト設定は、商業目的のAI学習について、透明で実質的なコントロールを提供するのに十分なのか。今後の裁判と規制当局の対応が、その答えを左右することになります。