ベレンベルクの中心的な見方は明快だ。ラグジュアリー株の不調は、商品企画やクリエイティブディレクターの問題だけではない。Investing.comによると、同行はクリエイティブ面の刷新や価格調整への期待が本質を見誤っており、問題は供給ではなく需要にあると指摘した 。
FashionNetworkは、ニック・アンダーソン氏率いるチームがLVMHを買いからホールドへ、グッチを抱えるケリングをホールドから売りへ引き下げ、業界は構造的な需要問題に直面しており、30年続いたラグジュアリーのスーパーサイクルは終わったとした、と報じている 。
このため、ベレンベルクは株価反発を追いかけるのではなく売るべきだとみる。過去の高成長と高いバリュエーションを前提に株価を評価し続けるなら、成長率が一段低い局面では下値余地が残る。GuruFocusによれば、同行は過去9年間の水準と比べて平均25〜35%のバリュエーション低下余地を見込んでいる 。
もう一つの重い材料は、業界全体の売上トレンドだ。Investing.comは、2025年が世界のラグジュアリー収入が2年連続で減少する過去30年で3度目の年になる見通しだと報じた。過去の例はドットコム・バブル崩壊期と世界金融危機の時期だった 。
欧州ラグジュアリー株を見るうえで、中国は依然として最大の振れ要因だ。ベレンベルクは、2020年代の逆風として、中国消費の制約、憧れ消費層への継続的な圧力、Z世代とのエンゲージメント不足を挙げている 。
MarketScreenerの報道によれば、ベレンベルクは2026年のラグジュアリー見通しの中心に中国を置き、不動産市場の弱さで家計が支出を抑える「バランスシート不況」のような圧力を指摘した 。日本の読者にはなじみのある言葉だが、要するに資産価格の下落が消費マインドを冷やし、家計が買い物より守りを優先する局面を指す。
もっとも、証拠は一方向ではない。ロイター系の報道によると、LVMHの2025年第3四半期売上は前年同期比1%増となり、中国本土市場は1桁台半ばから後半のプラスに転じた。この結果を受け、LVMH株は14%上昇し、セクター全体にも買いが広がった 。
ベレンベルクの懸念が特に強いのは、いわゆるアスピレーショナル層だ。これは超富裕層ではないが、バッグや小物、ジュエリーなどを節目に購入する「憧れ消費」の顧客を指す。同行は、この層の支出が継続的に圧迫されているとみている 。
LVMH決算を前にしたロイター系報道では、投資家がベルナール・アルノーCEOに対し、大幅な値上げで離れた買い手を取り戻すためのさらなる対応を求めていると伝えられた 。コロナ後のラグジュアリー業界は値上げと上位商品への移行で成長を押し上げてきたが、入口価格帯や時々購入する層が離れれば、そのモデルは続きにくくなる。
ベインの市場データも、過熱ではなく正常化に近い景色を示している。同社は2025年の世界のラグジュアリー関連総支出を1.44兆ユーロと推計し、2024年比では現在の為替レートで1〜3%減、恒常為替ベースでは1%減から1%増の範囲とした 。崩壊ではないが、かつての急成長局面に戻ったとも言いにくい。
Z世代がラグジュアリーに無関心というわけではない。マッキンゼーは、Z世代の支出は過去の世代の2倍の速さで伸びており、2029年までにベビーブーマー世代の支出を上回る可能性があると指摘している。その背景には、ベビーブーマー世代からZ世代とミレニアル世代への15兆〜20兆ドル規模の資産移転があるという 。
同時に、代替チャネルは拡大している。BCGとヴェスティエール・コレクティブは、ファッションとラグジュアリーの中古市場を現在2100億〜2200億ドルと推計し、2030年には3200億〜3600億ドルへ拡大すると見込む。年平均成長率は10%で、新品市場の約3倍の速さだという 。
EYの2025年版Luxury Client Indexも示唆的だ。中国本土では、顧客の50%が柔軟な支払い手段を求め、25%が高品質な代替品、いわゆるデュープを求めている。ここでいうデュープとは、ラグジュアリーメゾンのロゴは使わずにデザインを模した商品のことだ。また、調査対象顧客の54%は、ラグジュアリーメゾンから直接販売される中古品を購入したいと答えた 。
これは若年層がラグジュアリーを拒否しているという意味ではない。フルプライスの新品だけでなく、中古、再販価値、アクセスのしやすさ、ラグジュアリーらしさを持つ代替品を組み合わせて選ぶ消費者が増えている、ということだ。
LVMHとケリングはすでに大きな調整を経験している。2025年7月のロイター系報道によれば、LVMH株は年初来で約27%下落し、ケリングは15%下落していた。一方、より富裕層顧客への依存度が高いエルメスとリシュモンはほぼ横ばいだった 。
2026年1月のベレンベルクの弱気なセクターノート後には、MarketScreenerがケリングの3.74%安、LVMHの2.81%安、ロレアルの2.36%安、エルメスの2.43%安、バーバリーの約4%安、リシュモンの約3%安を報じた 。
ただし、株価が下がったからといって下落余地が完全に消えたとは限らない。ベレンベルクのバリュエーション論は、株価がなお過去の成長軌道を織り込みすぎているというものだ 。同時に、セクター内の差も大きい。2025年7月時点の株価動向は、エルメスやリシュモンのように富裕層顧客への露出が高い企業が、LVMHやケリングより持ちこたえていた可能性を示していた
。
実店舗の不動産市場を見ると、需要が全面崩壊しているようには見えない。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドは、欧州のラグジュアリー通りの賃料が2024年を通じて上昇を続け、2024年末時点の賃料水準は2018年末を平均3%上回ったとした。一方、非ラグジュアリーのハイストリートは2018年末を10%下回っていた 。
サヴィルズの調査でも、欧州の主要ラグジュアリー通りの約50%で今後1年に賃料上昇の可能性があると報じられている 。旗艦店向けの希少な立地には、依然としてブランドがプレミアムを払う力があるということだ。
ただし、賃料の勢いは選別的になっている。サヴィルズによれば、世界27の中核ラグジュアリー目的地における平均プライム・ヘッドライン賃料の上昇率は、2025年に0.9%にとどまった。2024年の6.6%上昇からは大きく鈍化している 。
争点は、回復が来るかどうかだけではない。どれほど速く、どれほど質の高い回復になるかだ。
UBSも、2025年に横ばいだった欧州ラグジュアリーのオーガニック売上成長率が、2026年には5%に回復すると予想した。1株利益は2025年の12%減から2026年に12%増へ転じる見込みで、回復の鍵は中国需要の安定だとしている 。
これに対しベレンベルクは、従来の勝ちパターンが弱まったとみる。中国はもはや確実な成長エンジンではなく、憧れ消費層は価格に敏感になり、Z世代は旧来型のラグジュアリーと同じ関係を結ぶとは限らない、という見立てだ 。
ベレンベルクの「戻り売り」論が最も説得力を持つのは、中国の改善が限定的にとどまり、憧れ消費層が値上げに慎重なままで、若年層の支出の一部が中古品、メゾン公認のプレオウンド品、デュープなどに流れ続ける場合だ 。
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