予備非晶質化(PAI: Preamorphization Implantation)とは、ボロン(B)などのドーパントを本格的にイオン注入する前に、シリコン表面へイオンを照射して、浅い領域の規則正しい結晶格子を崩し、非晶質シリコン層を作る工程です。
主な狙いは、後工程の注入イオンが結晶方位に沿って必要以上に深く進む「結晶チャネリング」を抑えることです。
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非晶質化とは何か
単結晶シリコンでは、原子が長距離にわたって規則正しく並んでいます。一方、非晶質シリコンではこの長距離秩序が失われています。ただし、これはシリコンを溶かすことではなく、固体のまま原子配列の規則性を崩すことを指します。
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「予備」という言葉の通り、PAIは目的のドーパント注入より前に行います。たとえば、まずゲルマニウム(Ge)で予備非晶質化注入を行い、その後にボロンを注入する、といった順序です。
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なぜ結晶格子をあえて乱すのか
単結晶シリコンには、特定の結晶方位に沿って原子間の空間が比較的連続する方向があります。入射イオンがこの方向に入ると衝突が少なくなり、想定より深い位置まで進みやすくなります。これが**結晶チャネリング(channeling)**です。
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その結果、注入後の濃度プロファイルには深い側へ伸びる「テール」が現れることがあります。ここでいうチャネリングは、MOSFETの導電チャネルとは別の現象です。
PAIで表層の結晶秩序を崩しておけば、この通り道がなくなり、後から注入するドーパントの深いテールを抑えやすくなります。そのため、特に超浅接合を形成する工程で用いられます。
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たとえるなら、整然と植えられた木々の間にはまっすぐ進める道がある一方、配置が不規則なら遠くまで一直線には進みにくい、というイメージです。
代表的な工程の流れ
予備非晶質化注入
GeまたはSiなどのイオンを注入し、シリコン表層に十分な格子損傷を与えて非晶質化します。
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ドーパント注入
続いてボロンなどの目的不純物を注入します。非晶質層により、結晶チャネリングに起因する深いテールを抑えます。
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アニール
加熱処理によって非晶質層を再結晶化させ、ドーパントを電気的に活性化します。ただし、残留欠陥の制御も必要であり、非晶質化には工程上のトレードオフがあります。
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つまりPAIは最終状態としてシリコンを非晶質のまま残すための処理ではなく、ドーピング分布を制御するための一時的な工程です。
Sentaurus Processのpaiとの関係
たとえば、次のような記述があるとします。
implant Boron energy=230 dose=1.0e13 tilt=0 rot=135 pai
このpaiは、Sentaurus Processにおける予備非晶質化関連の注入モデル指定です。
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ただし、次の2点は区別する必要があります。
- 実際の製造プロセスにおけるPAI:Geなどを先に注入し、実際に非晶質層を形成する工程。
- コマンド中の
pai:当該注入にPAI関連モデルを適用するための指定。paiという語だけから、スクリプトが別途Ge注入を自動実行したと判断することはできません。
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上の行で明示されている注入種はあくまでBoronです。すでに構造中に非晶質層があるか、その深さがどの程度か、また使用バージョンでpaiがどのように扱われるかは、前段の注入条件とモデル設定を含めて確認する必要があります。