この痛手を受けて、ブレバン・ハワード・デジタルは現在、新しいCIOクリス・レイナー=クック氏の指揮の下、ステーブルコイン(価格が安定した暗号資産)の決済インフラに軸足を移す、抜本的な戦略転換を進めています。
BHデジタル・アセット・ファンドは、2025年初めに約24億ドル(約3600億円)を運用していました。しかし、1年後には29.5%もの価値を失い、運用資産は20億ドルを下回りました。
英フィナンシャル・タイムズ紙など複数のメディアが報じたところによると、損失の大部分は、売却が難しく評価が下がりやすい未公開株やベンチャー投資の評価損によるものです。また、あるLinkedInの投稿は、暗号資産「マントラ」の急落(フラッシュクラッシュ)が同ファンドに「数億ドルの損失」をもたらしたと指摘しています。
特筆すべきは、その前年まで2年連続で絶好調だった点です。2023年は+43%、2024年には+51.3%(一部資料では+52%)という驚異的なリターンを挙げていたのです。この+52%から▲30%への急転回は、ステーブルコイン投資の危うさを如実に示しています。
レイナー=クック氏が最初に手をつけたのは、リスク管理の引き締めです。業界関係者は「BHデジタルは、クリス・レイナー=クックの下で新たな顔を持った。それは厳格なリスク管理のフレームワークだ」と評しています。これは、2025年の大損が流動性の低いベンチャー投資への過度な集中によるものだったという反省に基づきます。
BHデジタルは、「ステーブルコイン・エコシステム」に特化したテーマ型ポートフォリオを立ち上げました。これは、値動きの激しいトークンや初期段階のベンチャー投資から、手数料収入を生むインフラへと投資対象をシフトする明確な意思表示です。
この戦略転換を最も明確に示すのが、2026年7月21日に発表されたステーブルコイン決済スタートアップ**オーガスタス(Augustus)**への出資です。
オーガスタスは、米国の連邦チャーター(銀行免許)を取得し、ステーブルコインとプログラム可能なドルを専門に扱う決済銀行(クリアリングバンク) の構築を目指す企業です。今回のシリーズBラウンドで**1.8億ドル(約270億円)を調達し、評価額は10億ドル(約1500億円)**に達しました。このラウンドを主導したのはタイガー・グローバル・マネジメントで、ブレバン・ハワード・デジタルはこれに投資家として名を連ねています。
オーガスタスは、2026年5月には米通貨監督庁(OCC)から全国規模の銀行免許の予備的承認を得ており、規制の枠組みの中で運営される、安定的な手数料収入が見込めるビジネスです。
| 要因 | 詳細 | 出典 |
|---|---|---|
| 2023年の好調 | BHデジタル・ファンドは+43%のリターン | |
| 2024年の好調 | マルチ戦略ファンドは+51.3%(+52%とする資料も) | |
| 2025年の大損失 | ▲29.5%は過去最悪。ビットコインは▲6%にとどまる | |
| 転換後のパフォーマンス | リスク管理体制の強化後、「緩やかながらプラスのパフォーマンス」を達成 | |
| 親ファンドの苦戦 | ブレバン・ハワードの主力マスター・ファンドは2025年、+0.8%の微増にとどまり、競合に大きく劣後 | |
| 経営体制の変更 | CEOのシャルマ氏が2025年8月に退任。ポストは廃止 |
レイナー=クック体制下のブレバン・ハワード・デジタルは、以下の三本柱で再建を図っています。
この一連の動きは、単なる一ヘッジファンドの再建策というだけでなく、暗号資産に投資する機関投資家の行動様式そのものが変わりつつあることを示しています。高いボラティリティ(価格変動性)を受け入れて高リターンを狙う「ベンチャー型投資」から、規制に支えられ、安定した収益を見込める「インフラ型投資」へのシフト——これこそが、ブレバン・ハワードの事例が示す、暗号資産運用の新しい潮流と言えるでしょう。