しかし、この快挙は同時に、米中AI競争における新たな火種となった。公開から間もない7月22日、ホワイトハウス科学技術顧問のマイケル・クラツィオス氏は、MoonshotがAnthropicの最上位モデル「Claude Fable 5」に対して「大規模かつ隠蔽的な産業規模の蒸留(ディスティレーション)」を行い、K3を構築したと非難した。蒸留とは、より小さなモデルがより大きなモデルの出力から学習する一般的なAI訓練手法である。クラツィオス氏はさらに、Moonshotが米国の輸出規制に違反してタイのサーバー経由でNVIDIAの規制対象チップ「GB300」を取得したとも主張した。スコット・ベッセント米財務長官はFox Businessのインタビューで、米国の知的財産権を侵害した中国AI企業に対する制裁は「依然としてテーブルの上にある」と述べ、Xへの投稿では「オープンソースは、米国の知的財産権を好き勝手に奪える『オープンシーズン』ではない」と宣言した。
Moonshot AIはこれらの疑惑を全面的に否定し、K3は独立した研究と革新によって開発されたと主張した。中国政府も米国の主張を「政治的に動機付けられた非難」であるとして正式に退け、現行法の下では蒸留は知的財産権侵害には当たらない標準的な技術であると強調した。
多くのAI専門家もホワイトハウスの主張に懐疑的な見方を示した。AnthropicのFableモデルが一般公開されたのはKimi K3公開のわずか約2週間前であり、クラツィオス氏が主張するような大規模な蒸留を行うにはあまりにも期間が短すぎるというのが主な理由である。
2026年7月24日から25日にかけて、NVIDIA、Microsoft、Meta、IBM、Palantir、Hugging Face、Mistral、Perplexityを含む25社のテック企業が連名で「Open Weights and American AI Leadership(オープンウェイトとアメリカのAIリーダーシップ)」と題する公開書簡を発表した。この書簡は、米国の政策立案者に対してオープンウェイトAIモデルに対する広範かつ早期の制限を課さないよう強く求める内容で、蒸留を「数十年にわたる開発手法」と擁護し、オープンモデルを制限すれば米国の競争力と革新性が損なわれると主張した。
特筆すべき点として、OpenAIはクローズドモデルが直接影響を受けないにもかかわらず、この書簡に静かに署名した。一方、AnthropicとGoogleは署名を見送った。NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏は、自身初となるX(旧Twitter)への投稿でこの書簡を共有し、「オープンモデルは安全性とサイバーセキュリティを強化し、革新と普及を加速させ、中小企業、研究者、スタートアップに力を与える」と述べた。
この業界の反発は、ホワイトハウスの蒸留疑惑と、オープンモデルの重み(ウェイト)に対する新たな輸出規制を求める声に直接応えたものである。
複数のメディアやアナリストは、K3のリリースをオープンソースAIにとっての「DeepSeek Moment」の可能性があると評している。これは、2026年初頭にDeepSeekのR1モデルが業界に送り込んだ衝撃に匹敵する出来事として、K3を位置づけるものだ。DeepSeek R1と同様に、K3は中国のオープンウェイトモデルが米国のトッププロプライエタリシステムに匹敵する性能を達成できることを示し、それが無料で利用可能であることで、クローズドな最先端モデルの必要性に関する既存の仮定を覆し、市場の混乱と地政学的な摩擦の両方を引き起こした。
Moonshot AIは約束通り、2026年7月27日にKimi K3の完全なモデルウェイトを公開し、開発者や研究者が自由にダウンロードできるようになった。米国政府はまだ正式な強制措置を取っていないが、制裁やエンティティリスト指定の脅威は依然として存在する。この事件は、革新、国家安全保障、そして知的財産権を巡る議論の中心にオープンウェイトモデルを据え、より広範な米中AI競争における新たな火種となっている。
現時点で、Kimi K3はこれまでに作成された中で最大のオープンウェイトAIモデルであり、フロンティアAIの時代における「オープン性」と「統制」の間の高リスクな緊張関係を象徴する存在となっている。