2026年2月のEuronewsとのインタビューで、PatelはAIエージェントの「身元調査(バックグラウンドチェック)」を求めた。これは、組織が人間の同僚をオンボーディングする時と全く同じように、デプロイ前にエージェントのアイデンティティ、許可、行動範囲を検証するというものだ。このようなチェックがなければ、単一の侵害されたエージェントが、誰も問題を検知する前に、自律的に何千ものステップを実行してしまう可能性があると警告している
。
Hugging Faceへの攻撃は、パラダイムシフトだった。この侵害は、数千ものアクションを実行し、特権を昇格させ、認証情報を盗み、内部クラスタを横断的に移動した自律エージェントフレームワークによって実行された。OpenAIは、自社のモデル(GPT-5.6 Solおよびプレリリース版)が関与していたことを認めている
。Patelは、防御側が使用しようとした商用AI APIのガードレールが当初、防御側自身をブロックしてしまい、Hugging Faceが対抗するためにローカルで実行する推論スタックに切り替えざるを得なかった点を指摘している
。
Patelの最も根本的な処方箋は、セキュリティアーキテクチャを「アクセス制御(誰がシステムに入るかを制御する)」から「アクション制御(システム内で何をすることを許可するかを制御する)」へとシフトさせることだ。彼はもはや、誰が、あるいは何がシステムに入るかを制御するだけでは不十分だと主張する。セキュリティは、エージェントが内部で「何を行うことを許可されているか」を制御し、その自律性にハードな境界を強制しなければならない。例えば、エージェントに脆弱性にパッチを当てるタスクが与えられた場合、特権を昇格させたり、認証情報を外部ストレージに書き込んだりすることを防がなければならない。
2026年7月21日、シスコ・ファウンデーションAIは 「Antares」 ファミリーをリリースした。これは脆弱性の特定(vulnerability localization)に特化して作られた、オープンウェイトの小型言語モデル群だ(Antares-350M、Antares-1B、そして計画中の3Bバリアント)。モデルはHugging Face上で公開されている
。シスコは同時に、各モデルが脆弱性のあるソースコードファイルをどれだけ正確に特定できるかを測定する500タスクのベンチマーク 「VLoc Bench」 も公開している。
| モデル | パラメータ数 | File F1スコア |
|---|---|---|
| GPT-5.5 | 約1.8T(推定) | 0.229(最高) |
| Antares-3B | 3B | 0.223 |
| Antares-1B | 1B | 0.209 |
| GLM-5.2 | 753B | 0.186 |
| Gemini 3 Pro | 非公開 | 0.152 |
| Antares-350M | 350M | 0.135 |
注目すべき結果:Antares-1B(10億パラメータ)は、GLM-5.2(7530億パラメータ)やGemini 3 Proを、脆弱性特定タスクにおいて上回っている。Antares-3BはGPT-5.5のトップスコア(0.223 vs 0.229)に肉薄している
。これらのモデルは、200倍以上大きい多くのオープンウェイトモデルやクローズドモデルを凌駕する性能を示した
。
Antares-1Bは、VLoc Benchの全500タスクを 1基のH100 GPUで約13~15分 で完了する。3Bバリアントも同様に、1基のH100で約15分で動作する
。対照的に、GPT-5.5は大規模なマルチGPUクラスタを必要とし、シスコの報告によれば、同等の評価には約5時間を要した
。
Antaresによる500エントリの完全な評価にかかるコストは 1ドル未満 で、1Bモデルの場合は約0.82ドルである。シスコの試算では、GPT-5.5でAPI経由で同じ処理を行う場合、トークン料金だけで数千ドル(数百ドルとの報告もあり
)かかる計算になる
。ある比較では、Antaresはテスト対象のリーディングクローズドモデルと比較して約 172倍安く、最良のオープンウェイト汎用モデルと比較しても 15.2倍安い と報告されている
。
Antaresモデルは十分にコンパクトであるため、ローカルまたはオンプレミスのハードウェアで実行できる。これにより、セキュリティチームは機密性の高いソースコードをサードパーティのクラウドサービスに送信することなく監査できる。これはデータ漏洩リスクを排除するだけでなく、クラウドからのデータ出力(エグレス)コストも削減する。機密性の高いコードベースを扱う組織にとって、これは極めて重要な利点となる。
Antaresは、新しい汎用的な最高峰(state-of-the-art)モデルではない。その画期的な点は、特定のセキュリティタスクに対する効率性にある。すなわち、フロンティアモデルに迫る脆弱性特定の精度を、パラメータ数で0.2%未満、推論コストで0.1%未満に抑え、すべてローカルハードウェア上で実現したことだ。Patelのより広範なメッセージは、AIエージェントが爆発的に普及するにつれて(彼はエージェント構築者の数が1年以内に1億5000万人から30億人に増加すると予測している
)、セキュリティ業界は自らのツールだけでなく、「誰を、何を信頼するのか」という根本的な前提そのものを再考しなければならない、ということだ。