ポールソン氏の主張の核心は、至ってシンプルです。
これらの要因が組み合わさることで、金相場には一時的な循環(サイクリカル)ではなく、数十年単位の構造的(セキュラ―)な追い風が吹いているというのが彼の見立てです。ポールソン氏は以前、貿易摩擦が金価格を2028年までに1オンスあたり約5000ドル(約78万円)まで押し上げる可能性があると予想。また、中央銀行は価格水準に関係なく買い続けるだろうと述べています。
この記事では、このポールソン氏の主張を、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の最新データや各国の購入パターンをもとに、ファクトチェック形式で検証します。
ポールソン氏がインタビューに応じた7月22日、金スポット価格は1オンスあたり約4147ドルで取引されていました。年初來の高インフレと米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が重石となり、2026年1月29日に記録した史上最高値の5595ドルから、約28%下落した水準です。
WGCが公表する「ゴールド・バリュエーション・フレームワーク」によれば、金のフェアバリューは約4100ドル(±5%の許容範囲)とされています。金は6月25日に一時4000ドルを割り込み7カ月ぶりの安値を付けましたが、7月に入って4100ドル台を回復しています。
つまり、ポールソン氏が「強気相場は始まったばかり」と主張するのは、高値から急落した後のタイミングであることを認識しておく必要があります。彼の主張は、短期的な値動きに対するものではなく、あくまで長期的な構造転換に対する確信に基づいたものなのです。
ポールソン氏の主張で最も強力なエビデンスとなるのが、中央銀行による金購入の構造的変化です。
中央銀行は16年連続で金の純買い手となっています。特筆すべきは、2022年から2024年にかけて、純購入量が年1000トンを超えたことです。これは、2010~2021年の年平均約473トンと比較して、2倍以上のペースにあたります。2025年は863トンと1000トンを下回ったものの、それでも2022年以前の平均を82%上回っています。
2026年第1四半期(1~3月)の純購入量は 244トンに達しました。これは前期比17%増、前年同期比3%増という数字で、過去1年以上で最速のペースでの積み上がりです。このペースが続けば、年換算で1000トン近い購入となり、過去4年の高水準が「異常値」ではなく「新常態(ニューノーマル)」であることを示唆しています。
WGCのデータによると、中央銀行による金購入が200トンを超えた四半期は、過去11四半期中10回にのぼります。
ポールソン氏の主張の核心は、この中央銀行の買いが「一時的な地政学的リスクへの対応(循環的)」ではなく、「恒久的な準備資産管理のシフト(構造的)」である点にあります。データはこの構造的変化を強く支持しています。
ポールソン氏の見解はデータに強く裏付けられているものの、無視できない注意点もあります。
ジョン・ポールソン氏が「金の強気相場はまだ始まったばかり」と宣言した根拠は、現実のデータに基づいた構造的な変化にあります。中央銀行は確かに、金の売り手から積極的な買い手へと変貌を遂げました。その購入ペースは過去4年間、歴史的平均の約2倍で推移しています。ポーランド、中国、そしてブラジルを含む新興国の中央銀行は、金を「投機対象」ではなく「戦略的準備資産」として扱っています。
しかし、2026年前半の価格動向(最高値から約28%下落)は、強力な構造的な需要ですら、FRBのタカ派的な金融政策やドル高という短期的な逆風によって押し流される可能性があることを示しています。
ポールソン氏の主張はデータに裏付けられています。しかし、それは長期的な確信に基づく「信念のトレード」であり、確実性ではありません。