この暴落に対し、ウォール街の二大銀行は真逆の見方を示しました。シティとバンク・オブ・アメリカ証券は「この売りは方向性を間違えている」と断言し、その根拠として160年前の経済理論「ジェヴォンズのパラドックス」を持ち出しました。
19世紀の英国経済学者ウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズが石炭消費の分析で提唱した理論で、「技術の効率化により単位あたりのコストが下がると、消費量は減るどころか増える」という逆説です。石炭の燃焼効率が上がれば、より多くの工場や蒸気機関が使えるようになり、総消費量は増大しました。シティとBofAは、AIの推論コスト低下も全く同じ帰結をたどると主張します。
韓国市場でもこの議論は認識されました。7月20日付の朝鮮日報によれば、証券業界のメモがジェヴォンズのパラドックスを引用したことで、サムスン電子とSKハイニックスの株価が一時的にプラスに転じたと報じられています。
シティの半導体アナリスト、ピーター・リーは、K3発表の数月前に録音されたCiti Researchのポッドキャストで既にこの理論を展開していました。「こうしたソフトウェア効率化はメモリへの脅威ではない。むしろ需要にとってプラスだ。AIをより安く、より有用にし、より高度なチップへの購買サイクルを駆動する。まさにジェヴォンズのパラドックスだ」
Kimi K3のアーキテクチャが具体的にメモリ需要を押し上げる理由として、リーは4点を挙げています:
シティはこれとは別に、DRAM価格が2026年に最大200%急騰し、HBM価格は2026年第4四半期に前期比30%上昇するという強気のメモリ価格予測を公表しており、K3以前からAI主導のメモリスーパーサイクルを予期していたことがわかります。シティは2025年9月の時点で、DRAMとNANDフラッシュの両方が2026年までに供給不足に陥ると警告していました。
BofAはKimi K3に関する公式コメントで「ジェヴォンズのパラドックス」という言葉を明示的には使っていませんが、その事前および売り浴びせ後のポジションは同じ論理に沿っています。
| アーキテクチャの特徴 | メモリ需要を押し上げる理由 |
|---|---|
| 2.8兆総パラメータ(MoE) | 疎な活性化でも全2.8兆の重みをシステムメモリに常駐させる必要がある。オープンウェイトセルフホスティングには大容量DDR5プールとHBM搭載GPUが必要。 |
| 100万トークンのコンテキスト窓 | KVキャッシュはコンテキスト長に比例して拡大。安価な推論が長いプロンプトを促進し、クエリあたりのメモリ消費が増大。 |
| エージェント/マルチステップワークフロー | 各推論ステップが個別の推論呼び出し。タスクあたりのステップ数が増えれば、ユーザーセッションあたりのメモリ帯域消費が増大。 |
| オープンウェイト公開(7月27日) | 広範なセルフホスティングを可能にし、共有APIでは集約されていたメモリフットプリントをデプロイごとに固定追加。 |
| 競争力のある価格(約$3/100万入力トークン) | 過去のAI価格下落は常にトークン総量の爆発的増加を招き、効率化の利益をはるかに上回った。 |
2025年1月のDeepSeek-R1ショックは全く同じパターンを示しました。安価な中国モデルが半導体パニックを引き起こした後、実際にはチップ需要は加速しました。シティとBofAはKimi K3を「DeepSeek 2.0」と見ています。同じ恐怖、そしておそらく同じ結末が、サムスン、SKハイニックス、マイクロンといったメモリメーカーを待っているというのです。
業界データもこのテーゼを支持しています。TrendForceはHBM需要が2026年だけで前年比70%増加し、HBMがDRAMウェハー総生産の23%を消費すると予測しています。アナリストはAIデータセンターが2026年には全ハイエンドDRAMの約70%を消費すると推定しています。マイクロンのCEOサンジャイ・メロートラ自身、供給不足は2026年以降も続くと認めています。
このテーゼの限界を認識することも重要です。両行とも売りそのものが不合理だとは主張していません。「方向性を間違えている」だけです。BofAはメモリの「コスト高騰懸念」が下落の一部を正当化すると明確に認めています。また、シティの強気のメモリ価格予測は、下流のAI企業を圧迫する価格上昇圧力を暗に含んでいます。そして、BofAはKimi K3に関する公式コメントで「ジェヴォンズのパラドックス」という言葉を明示的には使っていないことも留意すべきです。
両行は短期的な市場の恐怖を認識しつつも、Kimi K3の低コスト化とオープンウェイト公開はAI導入を拡大し、総推論量を増やし、メモリ需要を押し上げる——需要を座礁させるのではない——と一貫して主張しています。19世紀の石炭消費で初めて観察されたジェヴォンズのパラドックスは、2026年のAI半導体需要を理解する上で最も信頼できる枠組みであることが証明されるかもしれません。