このツールを利用するには、まずクリエイターは第三者サービスであるJumioを通じて本人確認(Identity Verification)を行う必要があります。プロセスは以下の2ステップです:
TikTokは、提出されたID書類や顔の生体データ(バイオメトリクス)を保持しないと明言しています。確認はJumioによって処理され、登録者が本人であることを確認するためだけに使用されます。Jumio側のシステムでは、通常「参照用セルフィー」が同社サーバーに保存され、組織のデータ保持設定に応じてユーザーアカウントと関連付けられますが、TikTok自体はそれらの画像を保持しない方針です。
本人確認が完了すると、TikTokのAIがプラットフォーム全体をスキャンし、そのクリエイターの肖像が不正に使用されている可能性のあるコンテンツがないかを検出します。一致する可能性があるものが見つかった場合、クリエイターはその内容を確認し、無断でAI生成されたなりすましコンテンツをTikTokに直接報告・削除依頼できます。
現在、このテストは米国のごく一部のクリエイターのみが対象です。TikTokは、より広範なロールアウトのスケジュールや国際展開については発表していません。
一方、YouTubeの同様のシステムははるかに成熟しており、広く利用可能です。
| 機能 | TikTok | YouTube |
|---|---|---|
| ローンチ状況 | 限定的テスト(2026年7月) | 広範囲に展開済み(2026年5月18日までに完了) |
| 利用資格 | 米国の一部クリエイターのみ | 18歳以上の全ユーザー |
| 本人確認方法 | Jumioによる第三者確認(ID+ライブセルフィー) | YouTubeアカウントの確認プロセス |
| データ保持 | TikTokはID・生体データを保持しないと声明 | 標準的なGoogleアカウントデータポリシーに準拠 |
| 検出方法 | AIが顔・画像の類似性をスキャン | AIが顔を照合。コンテンツIDハブと同様の仕組み |
| マッチ後のアクション | TikTokに報告し、削除を依頼 | 内容を確認・判断。プライバシー申し立て手続きによる削除依頼も可能 |
YouTubeは2024年にYouTube Partner Program(YPP)のクリエイターを対象にLikeness Detectionのテストを開始し、その後2026年初頭にかけて著名人やエンターテインメント業界へと段階的に拡大しました。そして2026年5月18日、YouTubeはこのツールを18歳以上のすべてのユーザーが利用可能になったと発表しました。YouTubeはこれをコンテンツIDと同様のマッチングサービスと位置付けており、クリエイターは自分の顔が使用されたAI生成コンテンツを発見、確認し、削除をリクエストできます。最大の違いは規模とアクセス性です。YouTubeのツールは数億人の成人ユーザーに開放されている一方、TikTokのテストは米国限定の狭いパイロットに留まり、広範な公開時期は未定です。
TikTokはプラットフォーム上で13億本以上のAI生成動画にラベル付けを行っており、全TikTokコンテンツの52%が何らかの形でAI(フィルターやエフェクトから完全なAIアバターまで)を利用しています。1日あたり推定750万本のAI生成動画がアップロードされており、これは全アップロードの約22%に相当します。TikTokはすでにAIコンテンツへのラベル表示を義務化し、ユーザーがAIコンテンツの表示量を減らせるフィード制御機能も導入しています。
このTikTokのテストは、EU AI法第50条(Article 50)の透明性義務が発効する2026年8月2日のわずか数週間前に行われました。この規則では、ディープフェイクや合成音声・画像・動画・テキストなど、AIが生成または操作したすべてのコンテンツについて、EU域内で展開される場合、機械可読形式でマーキングし、かつ視覚的にラベル付けすることが義務付けられます。2026年5月8日には、欧州委員会が草案ガイドラインを発表し、たとえ欺く意図がなく作成されたディープフェイクであってもラベル表示が必要であると明記しました。欧州委員会が主導する「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範(Code of Practice)」は、これらのマーキング要件をさらに強化しています。
TikTokとYouTubeを含め、EUで事業を展開するプラットフォームは、この期限までに強固な検出、ラベル表示、執行のシステムを備える必要があります。
TikTokの今回のテストは、そうしたコンプライアンス要件に向けた先制的な一歩と見なせます。しかし、EUの期限まで数週間という状況で、これはあくまで一国の限定的なパイロットに過ぎず、グローバルユーザーベース全体をカバーする完成された執行システムには程遠いのが実情です。