Prior Labsは2025年2月、わずか€900万のプレシードラウンドを実施したのみでした。出資者はAtlantic Labs、Balderton Capital、Galion.exe、XTX Ventures、Hector Foundationの5社です。設立からわずか18ヶ月後——ラウンドクローズから約15ヶ月後——同社は€10億超でSAPに買収されました。出資者のBalderton Capitalは、この案件を**「ドイツ史上最大級のベンチャーEXITのひとつ」と評しています。複数の報道によれば、創業者のFrank Hutter、Noah Hollmann、Sauraj Gambhirの3人は、$5億超を一括で現金受領**したとされています。
買収後もPrior Labsは独自のブランドと経営体制のもと、独立したユニットとして運営を継続します。SAPのドイツ語プレスリリースでは、研究文化を維持するため独立ユニットとして機能すると明記されています。本社はドイツ・フライブルクに置いたまま、ベルリンとニューヨークのオフィスも維持されます。
本買収の技術的な核は**TabPFN(Tabular Prior-data Fitted Networks)**です。これは、自由形式のテキストではなく、ビジネストランザクションのような行と列で構成される構造化データ(表形式データ)に特化して設計されたAIモデルです。従来の機械学習が各データセットに対して数週間の学習を必要とするのに対し、TabPFNは「インコンテキスト学習(in-context learning)」を採用。表形式のデータを与えれば、ほぼ即座に予測、分類、推論が可能です。SAPのCTOであるPhilipp Herzig氏は、この技術がエンタープライズAIにおける最大の未開拓領域——グローバルなビジネス運営の基盤である構造化データにファンデーションモデルを適用すること——をターゲットにしていると述べています。
Prior LabsのTFMは、SAPの3つの中核プラットフォームに統合されます。
この統合により、Prior Labsの技術はエンタープライズのトランザクションデータに対して「精度の高い推論」を行い、SAPデータと非SAPデータのギャップを橋渡しすることが可能になります。
本買収により、Prior Labsは**「欧州を代表するAI研究所のひとつ」**に位置づけられます。SAPはこれを、世界をリードするTFM研究人材(Frank Hutter教授)とSAPの膨大なエンタープライズデータ・流通網を結集した、欧州発のグローバルフロンティアAI研究所創設と位置づけています。今後4年間にわたる€10億超の投資は、AI研究の最前線で競うために必要なインフラ、人材採用、長期研究予算を確保するものです。