欧州委員会はこの計画をコンプライアンスに向けた「重要な一歩」と評価する一方、履行状況を厳重に監視すると警告しています。
Xに対する1.2億ユーロ(約200億円)の制裁金は、DSAに基づく初の不遵守罰金として2025年12月5日に科されました。内訳は以下の3つの違反に対するものです。
| 違反内容 | DSA条項 | 罰金額(推定) |
|---|---|---|
| 有料「ブルーチェックマーク」によるユーザー誤認(ダークパターン) | 第25条(1) | 4500万ユーロ |
| 広告リポジトリの不備(情報不足、操作性の低さ) | 第39条 | 3500万ユーロ |
| 研究者による公開データアクセスの阻害 | 第40条(12) | 4000万ユーロ |
DSAでは、制裁金は世界年間売上高の最大6%まで認められています。
罰金発表と同時に、欧州委員会はXに段階的な遵守期限を課しました。
2026年7月に承認された是正計画は、この2つ目の期限に対応するもので、6カ月の実施期間が付与されています。
なお、Xはこの制裁金を不服として欧州一般裁判所に控訴しており、審理は継続中です。
理解すべき重要な点は、今回の是正計画が3件の透明性違反のみを対象としていることです。
これとは別に、欧州委員会はXのシステミックリスク評価・軽減義務(DSA第34条・第35条)に関する公式調査を継続しており、この調査は2026年1月に拡大され、XのレコメンダーシステムとAIチャットボット「Grok」のEU域内展開に伴うリスクも対象に含まれています。
調査では、Xが違法コンテンツの拡散、偽情報、選挙操作などのリスクを適切に特定・軽減しているかが審査されます。これに関連し、欧州委員会はXに対し、Grok関連の内部文書とデータを少なくとも2026年12月31日まで保存するよう命令しています。
つまり、Xは2026年7月に承認された是正計画で透明性違反を解決しても、AIリスク評価を巡る別の調査という「第2の火種」を抱えたままなのです。
Xに対するDSA執行は、前例のない米国による外交圧力という地政学的な文脈の中で展開されています。
2025年8月、マルコ・ルビオ米国務長官は外交公電に署名し、駐欧米国大使館に対しEU各国政府へのDSA廃止・改正工作を指示しました。米国側の主張は、DSAが表現の自由を制限し、米国ハイテク企業に過大な負担を課しているというものです。
この圧力はさらにエスカレートし、2026年1月には米国務省がDSAおよびデジタル市場法(DMA)の起草に関与したEU当局者5名にビザ制限を発動しました。戦略国際問題研究所(CSIS)はこの動きを、貿易手段を活用してEUのデジタル規制に対抗する「封じ込めドクトリン」と分析しています。
また、米国下院司法委員会は「外国による検閲の脅威」と題する報告書を公表し、DSAを「外国による検閲ツール」と断じています。
2026年7月の是正計画承認は、1.2億ユーロ制裁金の発端となった3件の透明性違反(DSA第25条、第39条、第40条)を解決するものです。独立監査と6カ月の実施期間が条件となっています。
しかし、Xは依然として、AIチャットボットGrokを含むシステミックリスク評価義務(第34条・第35条)に関する別の係争中の調査に直面しています。
これらの執行措置は、DSA自体の弱体化・廃止を目指す米国による空前の外交圧力という、より大きな規制・地政学的対立の前線として展開されています。Xの事例は、単なる一企業のコンプライアンス問題を超え、デジタル主権を巡る米欧の覇権争いの縮図と言えるでしょう。