しかし、この考え方は2019年頃から転換し始める。「私たちは、シンビオソームが初期停止ファゴソームであるという従来の信念に挑戦する」と述べた研究チームは、シンビオソームは「機能的にライソソームに類似している」と提唱した 。
決定的な証拠の一つは、2025年に発表されたシラスミクラゲ(Cassiopea xamachana)の研究からもたらされた 。研究チームは、シンビオソーム膜に「V型H⁺-ATPase(VHA)」というプロトンポンプが豊富に存在することを発見。VHAは、真核細胞のファゴソームやライソソームを酸性に保つための酵素で、通常は病原体の分解に使われる。実際、シンビオソーム内腔は「顕著に酸性」であり、VHAを阻害すると共生関係が崩れた 。
この発見は、別の研究で作られた「造礁サンゴの細胞アトラス」とも一致する。このアトラスでは、藻類は「宿主細胞内のライソソーム様オルガネラ」に住む、と明確に記載されている 。
この仮説を最も直接的に検証したのが、バークレー校のグループによる2025年のプレプリント研究だ 。彼らは、サンゴ共生研究のモデル生物であるイソギンチャク(Aiptasia)を用いて、シンビオソームの高品質プロテオーム(タンパク質の全体像)を作成した。
結果は衝撃的だった。シンビオソームにはライソソームタンパク質が異常に豊富で、実際にライソソームがシンビオソームと融合する様子も可視化された。そして、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いて特定のライソソーム遺伝子(重炭酸塩/硫酸トランスポーターなど)をノックアウトすると、共生関係が有意に減少した 。これは、シンビオソームの「ライソソーム的性質」が機能的に重要であることを示す、初めての直接的な遺伝学的証拠である。
この驚くべき「ハイジャック」の仕組みは、以下のように機能する。
この「ライソソーム乗っ取り」モデルは、気候変動によって引き起こされるサンゴの白化現象の理解にも光を当てる。白化は、高温ストレスによって共生関係が崩壊する現象だ。
もしシンビオソームのライソソーム的性質が、宿主と藻類の微妙なシグナルバランスで維持されているのだとすれば、高温ストレスによってそのバランスが崩れ、かつて「管理された消化器官」だったものが、破壊的な消化器官へと変貌する可能性がある。2023年の研究では、白化ストレス下で脂質含有量とシンビオソーム膜の蛍光に強い負の相関が認められており、このモデルを支持している 。
なお、本記事で取り上げたUCバークレー校の研究は、プレプリント(bioRxiv)であり、まだ査読付き論文としては公表されていない。また、CRISPR実験はイソギンチャク(Aiptasia)で行われたものであり、直接サンゴ(Galaxea fascicularis)で行われたわけではない点には注意が必要である 。
しかし、クラゲ、イソギンチャク、複数のサンゴ種、そして単一細胞アトラスから得られた証拠の収束は、「ライソソーム機構の転用」が刺胞動物-藻類共生の基本的なメカニズムであることを強く示唆している。
「シンビオソーム」は単なる安全な隠れ家ではなかった。それは、サンゴの宿主細胞が光合成パートナーを支援するために積極的に管理する、動的な「ライソソーム様」の区画なのである。この新たな理解は、なぜ一部の藻類が多くの宿主に感染できるのか、そしてなぜ地球温暖化が白化を引き起こすのか、という根源的な疑問に答える鍵を提供する。
Lipid stores reveal the state of the coral-algae symbiosis, 2023.
Establishment of Coral–Algal Symbiosis Requires Attraction and Selective Uptake, PLOS ONE, 2014.
Co-option of lysosomal machinery shapes the symbiosis supporting coral reefs, bioRxiv, 2025.
Environmental pH signals the release of monosaccharides from cell wall in coral symbiotic alga, eLife, 2023.
A Rhesus channel in the coral symbiosome membrane, Science Advances, 2022.
Nutrient-dependent mTORC1 signaling in coral-algal symbiosis, bioRxiv, 2019.
Co-option of immune and digestive cellular machinery to support photosymbiosis, PMC, 2025.
A stony coral cell atlas illuminates the molecular and cellular basis of coral symbiosis, PMC, 2021.
SYMCELLS Project, European Commission, 2017.
Cell Biology of Cnidarian-Dinoflagellate Symbiosis, MMBR, 2012.