クアルコムは2025年10月、2026年投入予定のAI200と、2027年投入予定のAI250を正式に発表し、データセンター向けAIチップ市場への正式参入を表明した。これはNVIDIAやAMDに挑戦する動きだ。しかし、その戦略はNVIDIAの牙城であるトレーニング(学習)分野で直接競合することではない。アナリストは、クアルコムには「NVIDIAがAIトレーニングで対抗できるものを作る可能性は全くない」と指摘している。NVIDIAは2026年度、データセンター事業で約1835億ドルの売上を見込んでおり、その約半分をトレーニング関連が占めると予想されている
。代わりにクアルコムは、急速に成長するAI推論分野、つまり学習済みモデルを実際に実行する工程に狙いを定めている
。
AI200は、最大72個のアクセラレータが1つのシステムとして動作する、液体冷却対応の完成品サーバーラック(「Qualcomm AI200 Rack」)として販売される。これはNVIDIAやAMDが採用するフォームファクターと同じであり、ハイパースケーラーにとってはドロップインで競合可能な製品となる。その最大の差別化要因はメモリにある。AI200は1カードあたり768GBのLPDDR5Xを搭載しており、これはHBMを搭載したどのアクセラレータよりもはるかに大容量だ。ラック全体では合計43TBのメモリを搭載する
。クアルコムは、このLPDDRベースのアプローチにより、NVIDIAが依存する高価で調達が困難なHBMと比較して、低コストで大容量を実現できると主張している
。
クアルコムは、優れたエネルギー効率と低コストなメモリサブシステムにより、推論ワークロードにおける総所有コスト(TCO)を低減できるとしている。すでにHUMAIN社は、2026年からAI200ベースのラックを200MW規模で導入する提携を発表している
。ただし、チップあたりの性能数値(TOPS、TFLOPS)は未公開であり、NVIDIAのB200/B300やAMDのMI350シリーズとの直接的なシリコンレベルでの比較は現時点では不完全である
。
NVIDIAは、GPUベースのアーキテクチャ、CUDAエコシステム、そしてHBMメモリによって、トレーニングと推論の両方で支配的な地位を築いている。クアルコムのAI200は、直接的なGPU競争を避け、メモリ容量(帯域幅だけでなく)が重要となる超大規模モデルの推論ワークロードを標的にしている。しかし、クアルコムにはNVIDIAの成熟したソフトウェアエコシステムが欠けているのが現状だ。
一方、AMDのInstinct MI300X/MI350シリーズも推論をターゲットにしており、HBM3メモリとCDNAアーキテクチャを採用している。クアルコムの主張はこれと類似しており、推論特化のワークロードにおいて、より優れた効率性、低TCO、そして差別化されたメモリ容量を訴求する。
クアルコムは、NVIDIAやAMDが長年にわたり築いてきたデータセンターにおける関係性、ソフトウェアスタック、そして導入実績という強固な壁に挑むことになる。AI200の成功は、推論市場の顧客がエコシステムの成熟度よりもメモリ容量とTCOを重視するかどうかに完全に依存している。
サムスン電機は、基板事業をAIサーバーおよびデータセンター顧客向けに積極的にシフトさせている。クアルコムの受注に加え、サムスン電機はNVIDIAの次期プラットフォーム「Vera Rubin」に統合される推論アクセラレータ「Groq 3 LPU(言語処理ユニット)」向けFC-BGA基板のファーストベンダー(最優先供給元) の地位を獲得しており、2026年第2四半期から量産を開始している。また、テスラの次世代AI6チップ向けFC-BGAの供給も確定している
。
需要の高まりにより、生産能力は逼迫している。FC-BGAの稼働率は、現在の約60%から2026年には80%以上に上昇すると予想されている。サムスン電機のチャン・ドクヒョンCEOによると、顧客からの需要は現在の生産能力を50%以上上回っている
。
この状況に対応するため、サムスン電機は大型投資を積極的に進めている。ベトナムには新たなFC-BGA生産能力を構築するために12億ドルの投資を発表している。また、2026年の研究開発費は36%増加しており、基板事業をより高付加価値なAIサーバー製品へと方向転換している
。同社は、サーバー、AI、自動車、ネットワーク向けの高付加価値FC-BGAの比率を2026年までに50%以上に引き上げることを目標としている
。
チャン・ドクヒョンCEOはCES 2026で、FC-BGAラインは2026年下半期にフル稼働する見込みであり、さらなる能力拡張も検討中であると述べている。また、サムスン電機はLG Innotekと、基板能力増強のためのビッグテックからの投資誘致で競争している
。
さらに多角化を進め、サムスン電機は、AIアプリケーション向けに、名前が明かされていないグローバルなテクノロジー企業と、2027年から2028年にかけての1兆5000億ウォン(約11億ドル)規模のシリコンコンデンサ供給契約を締結した。
サムスン電機は、クアルコム、NVIDIA、テスラというAIチップ業界の主要プレイヤー全てに同時にサービスを提供する、最高価値のAIチップパッケージング基板における、極めて重要なマルチカスタマーサプライヤーとしての地位を確立した。急増する需要によりその生産能力は逼迫しており、同社は有機的な投資(ベトナム、研究開発)と顧客とのパートナーシップの両面で、FC-BGAの生産能力拡大に積極的に取り組んでいる。クアルコムAI200の受注は、サムスン電機がもはや単なる家電部品メーカーではなく、AI基板サプライチェーンにおける第一層のプレイヤーであることを示す最新の証拠である。
Comments
0 comments