提示される報酬は極めて攻撃的だ。複数の報道によれば、テスラはTSMCのベース給与の3〜5倍に相当する年収を提示しているとされる。年収のスタートは約24万ドル(約3,800万円)と報じられている。韓国では、ベース給与が1億7,000万〜3億5,000万ウォン(約1,300万〜2,700万円)と、韓国の半導体エンジニアの平均の2〜3倍に上り、これにボーナス、ストックオプション、住宅補助、子女教育費が加わる
。米国では、カリフォルニア州パロアルトの求人で、モジュールプロセスエンジニアのベース給与として8万8,000〜24万ドル(約1,400万〜3,800万円)が示されている
。
テスラは、パロアルトやオースティンでも同時にエンジニアを募っており、世界中からの人材獲得を目指している。マスク氏自身もX(旧Twitter)で韓国の求人情報をシェアし、「韓国で半導体設計、製造、AIソフトウェアに携わっているなら、テスラに参加してください」と発信している
。また、アプライドマテリアルズやサムスンなど、他の半導体装置メーカーや製造会社のエンジニアにも接触している
。
TSMCも黙ってはいない。2026年4月、同社は平均3〜5%の昇給を実施し、特に優秀な人材には最大9%の昇給を行うと発表した。これは、テスラによる人材流出を食い止めるための直接的な対策だ。さらに、2025年には過去最高となる2,061億台湾ドル(約65億ドル)の社員ボーナスと利益分配を実施し、従業員一人当たり平均で約264万台湾ドル(約83,800ドル)を支給した
。
しかし、TSMCが直面する圧力はテスラだけではない。中国の競合他社は「数倍の給与」を、韓国の競合は巨額のボーナスを提示して人材を引き抜こうとしている。台湾の国家安全局は2026年4月の報告書で、中国が半導体技術の窃取と人材の引き抜きを体系的に強化していると警告している
。TSMCのエンジニアがテスラや中国企業などに大量に流出すれば、技術保護の観点からも深刻な問題となる。
一方で、『台北タイムズ』など一部のメディアは、テスラの計画に対する楽観論を牽制している。指摘されるのは、テスラには半導体製造の経験が全くないという事実だ。テスラは最近、独自開発していたAIスーパーコンピュータ「Dojo」のチームリーダーと約20人のチームメンバーを失っている。求人広告を出すことはできても、2nmプロセスを実際に動かす工場を一から立ち上げることは、TSMCが何十年もかけて築いてきたノウハウと比べれば、はるかに困難な挑戦であるとされる
。
テラファブの規模も途方もない。工場のフル稼働には推定8,000〜10,000人の労働者、その中には何千人もの高度に専門化されたエンジニアが必要とされる。目標とする2ナノメートルプロセスは、現在量産が始まったばかりの最先端技術である
。テラファブでは、現在のAI4チップに比べて計算性能が40〜50倍高いAI推論チップ「AI5」を生産する計画で、2026年に少量生産、2027年半ばに本格生産を目指している
。
テスラの採用戦略に関するいくつかの重要な事実は、まだ確認されていない。「3〜5倍の給与」という数字は広く報じられているが、テスラの公式な求人票に記載されたものではない。実際の総報酬(ベース給与、株式、移転手当)は、職種や経験によって大きく異なる可能性がある。また、実際に何人のTSMCエンジニアがテスラのオファーを受け入れたのかについては、台湾の報道で「2週間で100件以上の履歴書が殺到した」との情報があるものの、公式には確認されていない。
テスラはまた、TSMCやサムスンとの間で次世代AI5チップの生産契約を維持することで、リスク分散を図るデュアルソーシング戦略もとっている。しかし、マスク氏はこれだけでは長期的に十分ではないと述べており、テラファブへの本気度を示している。
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