約2兆ドルの評価額が報じられるAnthropicのIPOをめぐり、公募市場の一部では1.5兆ドル前後が妥当との見方も出ています。1.5兆ドルは2兆ドルより25%低い水準です。ただし、いずれも確定したIPO価格ではなく、報道されている評価の目安です。
2
焦点は、Anthropicの成長を信じるかどうかだけではありません。上場株を買う投資家にとっては、巨額の投資負担や競争のリスクを織り込んだうえで、その価格から十分なリターンを得られるかが問われます。
成長の期待と、上場価格への厳しい目
ベンチャー投資家は、Anthropicが長期的に有力なAIプラットフォームへ成長する可能性を重視できます。投資期間を長く取り、事業が大きくなる未来を先回りして評価する考え方です。
一方、公募市場の投資家は、IPOで株を買う価格を出発点に、今後どれだけのリターンが見込めるかを考えます。株式や債券など、ほかの投資先と比較するため、企業の将来性が高くても、提示価格が高すぎると判断すれば慎重になります。
5,180億ドルのインフラ負担
Anthropicの計画には、AIモデルの開発・運用に必要な計算資源やインフラへの大規模な支出が伴います。報道によると、同社は2025年に420億ドルの純損失を計上し、今後のクラウド、計算資源、インフラに関する支出義務は5,180億ドルに上ります。
1
この純損失には、将来株式に転換される可能性がある資金調達の評価額上昇に伴う会計上の費用も含まれると報じられています。したがって、損失額だけで事業の現金支出をそのまま測ることはできません。それでも、必要な計算能力を確保し続けるために大きな資金が必要になる点は、投資家が評価額を慎重に見る理由の一つです。
11
IPOが実現すれば、こうした資金需要に応える手段となる可能性があります。引受銀行が1000億ドル超の調達を検討しているとの報道もありますが、これは協議段階の情報で、確定した調達計画ではありません。
18
OpenAIとの競争も、評価に影響
AnthropicはOpenAIなどとAI開発を競っています。モデルやサービスの競争力を維持するには、計算資源への投資が引き続き必要になる可能性があります。投資家にとっては、AI市場の成長機会だけでなく、競争に必要な費用も評価に織り込む必要があります。
1
金利上昇で狭まる上場の好機
金利や債券利回りが上がると、投資家は新規上場株に求めるリターンや価格を見直しやすくなります。実際、健康データを計測するスマートリングを手がけるOuraは、IPO市場の不確実性を理由に上場を延期しました。報道では、債券利回りの上昇や金利見通しの変化も市場の慎重姿勢の背景として挙げられています。
Anthropicについては、上場時期が当初の見通しから後ろ倒しになった後、早ければ11月中旬の上場を目指していると報じられました。ただし、具体的な日程や価格は確定していません。
2
「シリコンバレー対ウォール街」の溝とは
非公開市場でAI企業への高い評価が続く一方、上場株の買い手が価格に慎重になることは矛盾しません。非公開市場の評価には、将来の大きな成長への確信が反映されます。IPOでは、より広い投資家層が、会社のコストや競争、金利環境を踏まえた現在の価格に納得する必要があります。
7
8
つまり、議論の中心はAnthropicに成長性があるかどうかだけではなく、その成長にどの価格をつけるかです。なお、Ouraの延期は確認できる一方、SB Energyの上場延期や米国の新規上場銘柄のリターンが弱まっているという点については、今回確認できる報道だけでは具体的な根拠を裏付けられません。これらをAnthropicの評価額をめぐる差の確定的な証拠として扱うべきではありません。