胎児ヘモグロビン(HbF)は、出生後しばらくすると成人型ヘモグロビンに置き換わっていくヘモグロビンです。ボストン小児病院、ダナ・ファーバーがん研究所、ブロード研究所などの研究者は、HbFの量を調節する別の仕組みとしてBACH2–NRF2経路を報告しました。鎌状赤血球症やβサラセミアの研究に新たな手がかりをもたらす可能性がありますが、この経路を利用した治療が患者に安全で有効だと示されたわけではありません。
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2万8,279人の遺伝情報から見つかった手がかり
研究チームは、複数の祖先集団にまたがる2万8,279人を対象に、遺伝的な違いとHbF量の関連を調べました。解析からHbFに関係する領域が見つかり、BACH2が調節役の候補として挙がりました。
注目されたのは、HbFが高いことに関連する遺伝的変異が、BACH2の発現低下と結びついていた点です。BACH2が通常はHbFの産生を抑えているなら、その働きを弱めることでHbFが増えるのではないか――。研究者たちは遺伝子の働きを変える実験でも検討し、BACH2が機能的に関わるという見方を支持する結果を得ました。
BACH2が抑え、NRF2が活性化を後押しする可能性
研究で提案されたモデルでは、BACH2はHbFをつくるガンマグロビン遺伝子の活性化を抑える「ブレーキ」として働きます。BACH2が減ると、NRF2がクロマチンに結合しやすくなり、HbFをつくる遺伝子の活性化を後押しすると考えられています。
この仕組みは、BACH2に関わる遺伝的な違いがHbF量に影響する理由を説明する手がかりになります。ただし、今回の情報から特定の血液幹細胞実験の詳細まで説明したり、この経路が人の治療法として確立したと結論づけたりすることはできません。
血液疾患の治療研究で注目される理由
HbFは、鎌状赤血球の形成につながらないタイプのヘモグロビンです。鎌状赤血球症やβサラセミアでは成人型ヘモグロビンに関わる異常があるため、HbFを増やすことは治療上の目標の一つになっています。
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現在の遺伝子治療の一部は、HbFへの切り替えを調節するBCL11Aを標的としています。たとえばCasgevyはBCL11A経路を利用します。一方、BACH2–NRF2経路はBCL11Aとは独立してHbFを調節すると報告されています。
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そのため、BACH2–NRF2はHbFを増やす別の方法を探るうえで、研究対象となる可能性があります。将来的にBCL11Aを標的とする方法と併用できるかも関心を集めますが、併用で効果が高まるか、BACH2を標的にすることが血液幹細胞にとって安全かは、まだ明らかになっていません。
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治療につなげるには、検証が必要
治療法として検討するには、HbFを安定して長期的に増やせるか、経路の変更が血液幹細胞の働きにどう影響するか、そして安全性を確かめる必要があります。現時点で示されているのは、生物学的な可能性です。患者への利益が証明されたものでも、治療を勧める根拠でもありません。
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